逆石油ショックからスイスフラン急騰まで、世界市場が乱高下の荒波に晒されている。一見、無軌道に思えるグラフの曲線を紐解くと、その裏に大きな思惑が見えてくる。原油価格の暴落の仕掛け人は誰か、国際政治学者の浜田和幸氏が解説する。
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ここ数年、1バレル100ドル前後で推移してきた原油価格は、2014年6月を境に急落し、50ドルを割り込むまでになった。これほどの暴落にもかかわらず、サウジアラビアが減産しない方針を表明したため、マスコミでは今回の原油安を「産油国によるシェールガス・オイル潰し」と解釈する論調が支配的である。
一方、原油安が直撃し、40%以上のルーブル安に見舞われたロシアのプーチン大統領は「原油安は、ロシアを滅ぼそうとする米国とアラブ共同の陰謀だ」と断じている。
他にも、原油を資金源にしているイスラム国を潰すために、米政府が意図的に原油安を仕組んだとの見方もある。
さまざまな憶測が飛びかっているが、これらの見方は表層的に過ぎない。原油先物市場というのは投機マネーが暴れ回る”鉄火場”で、OPEC(石油輸出国機構)の価格支配力はすでにない。必ずしも需給を反映しないし、政府にも統制力はない。
アメリカのエクソン・モービルをはじめ、原油の市場シェアを寡占している石油メジャー(大手6社のうち3社が米企業)は、自ら巨額のマネーを運用しながら、原油の投機筋と一体となって市場を動かしている。石油メジャーと投機マネーが資金を引き揚げない限り、こんな原油安は起きないのだ。
では、彼らの狙いはどこにあるのか。
米国でシェール開発を手がけている100近いベンチャーの大半は中小の事業者だが、原油価格が50ドルを割り込んで採算が合わなくなっている。今年1月に米テキサス州のシェール企業、WBHエナジーが60億円の負債を抱えて破綻したが、今後、破綻が相次ぐと見て間違いない。それらの会社や生産設備を二束三文で買い叩くのが石油メジャーだ。