「ナマの日本美術を見に行こう」と始まった大人の修学旅行シリーズ。今回の舞台となる京都では、14の寺で普段目にすることのできない非公開の寺宝、建築物、名庭が特別に公開されている。まだまだ眠る日本美術の神髄を、山下裕二明治学院大学教授に導かれ、女優の笛木優子が巡った。
山下:僕はこれまで京都には700回以上来ていますが、まだ見たことのないものがたくさんあるんですよ。京都で公開されているものはごく一部なんです。
笛木:なぜ京都には非公開のものが多いのでしょうか。
山下:仏像や掛軸、襖絵をはじめ、文化財は保存管理するのが難しいので、博物館に預けてそのままになっていることも多い。公開してたくさんの拝観客が来ると人手が足りないので対応できないという事情もあります。また、ご本尊の仏像が絶対秘仏で、住職でさえ一度も厨子を開けたことがないという話も少なくありません。
笛木:今回伺った霊源院の「中巌円月坐像」も70年ぶりに博物館からお寺にお戻りになったそうですね。体の中に入っていた小さな毘沙門天の胎内仏も初公開でした。左手にのっているのはお釈迦様の骨(仏舎利)を入れる水晶だそうです。
山下:今でいう「国費留学」で中国に渡った高僧の肖像彫刻ですね。仏像以外の像に胎内仏が入っているというのは、私が知るかぎり他にありません。この高僧が生前大切にした仏様だったから入れたのでしょう。
笛木:800年前に作られたそうですね。そんなに昔の像とは思えません。
山下:800年前に作られたフィギュア。日本人は昔からフィギュアが大好きなんです(笑い)。この時期京都では14の寺で特別公開していますが、国宝や重要文化財だけでなく、普段見ることのできない庭園や茶室なども目にすることができます。私のイチオシは東福寺の塔頭・龍吟庵の西庭です。寺の名前にちなんで、白砂の海から龍の頭を模した青石がそそり立っていたり、驚くほど前衛的なんです。
笛木:通常非公開なのは歴史的な文化財ばかりではないのですね。
山下:特別に見させてもらうというのは胸ときめくもの。難しく考えずドキドキしましょう(笑い)。
●山下裕二(やました・ゆうじ):1958年生まれ。明治学院大学教授、美術史家。親しみやすい語り口と斬新な切り口で日本美術を応援する。『日本美術全集』(全20巻・小学館刊)を監修。
●笛木優子(ふえき・ゆうこ):1979年生まれ。女優。日本のみならず、韓国でもユミンの名で活動。現在、ドラマ『残念な夫。』(フジテレビ系)に出演するほか、黄桜「呑」のCMでの着物姿が話題に。
撮影■太田真三
※週刊ポスト2015年2月20日号