「いったい誰が、あんな話を広めているんでしょうね……」
安倍晋三首相が、親しい内輪の席でこう言って苦笑したという。安倍首相が言うところの「あんな話」とは、昨年末の解散総選挙を巡る、安倍首相と財務省のやりとりについてのものだ。そのことに関して、世の中的には以下のような“解説”が定着しつつあると言っていいだろう。
そもそも安倍首相が、予想外とも言えるタイミングで解散に踏み切るきっかけとなったのは、2015年10月に予定されていた消費再増税を延期したことだった。景気回復のテンポがあまりにも鈍かったことを理由として増税延期を決断した安倍首相の前に大きく立ちはだかったのが、財務省だった。
こうした安倍首相の動きに対抗する形で、財務省が、与党の国会議員を個別に訪問し、増税の必要性を説いて回るなど猛烈な巻き返し工作をした結果、安倍官邸は増税派に包囲されて身動きがとれなくなってしまったというのだ。そして安倍首相は、こうした“包囲網”を突破するために、伝家の宝刀を抜いて解散に打って出た……、というのが世に広まっているストーリーに他ならない。
とは言え本当に、安倍首相と財務省は、言われているような激しい攻防を繰り広げたのかどうか。そもそも本当に増税を巡って「安倍官邸vs財務省」なる対立の構図があったのか、ここ一連の動きを検証してみると、はなはだ疑問に思わざるを得ないのだ。
例えば昨年御用納め後となる12月28日夜、安倍首相は銀座のイタリア料理店で、昭恵夫人とともに親しい関係者と夕食を楽しんだ。その夕食会に出席したのは、北村滋内閣情報官夫妻、林肇外務省欧州局長夫妻、そして田中一穂財務省主計局長夫妻だ。一見すると何の脈略も無いように見える出席メンバーだが、実は安倍首相とこの三人の官僚の間にはある意味で強固な人間関係があると言っていいだろう。
「その三人は、第一次安倍政権時の首相秘書官を務めていた。つまり安倍首相にとって三人は、一番苦しかった時代に苦楽を共にした、最も信頼の置ける部下なのです」(官邸中枢スタッフ)
中でも注目すべきなのは、田中主計局長だ。田中局長は、今年夏の人事で事務次官への昇格がほぼ確定しているのだという。