女子マラソンの代表選手選考に対する解説者の増田明美氏の抗議が話題になっている。増田氏の言葉遣いに大人力コラムニスト・石原壮一郎氏は「大人の勇気と節度」を見る。
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日本陸連と解説者の増田明美さんが、激しいバトルを繰り広げました。3月11日に世界選手権(8月、北京)の代表を発表する記者会見が開かれましたが、女子のマラソン選手の選考について、増田明美さんが「これでいいんでしょうか?」と異議を唱えたのです。
代表に選ばれたのは、名古屋ウィメンズマラソンで3位(2時間22分48秒)の前田彩里と同じレースで4位(2時間24分42秒)だった伊藤舞、大阪国際マラソン3位(2時間26分39秒)の重友梨佐の3人でした。もうひとり、横浜国際マラソンで優勝(2時間26分57秒)した田中智美も有望と見られていましたが、選ばれませんでした。
増田明美さんは、居並ぶ日本陸連の幹部たちに質問。まずは「びっくりしました。なぜ同じ26分台で大阪で3位だった重友さんなんでしょうか?」と口火を切ります。それに対して日本陸連の酒井強化副委員長は、「優勝は評価するが、田中選手の走りは世界と戦うという意味では内容は物足りないものがあった」と返します。
しかし、増田さんは引き下がりません。「重友さんは確かに復調の兆しがあったが、まだまだのように見えた。優勝した田中さんには圧倒的な強さがあったと思う。これで本当にいいのでしょうか?」と食い下がります。酒井副委員長は「我々も現場のプロ。世界を目指す上で、評価した」と説明。やり取りはいったん終わりますが、増田さんは最後にまた手をあげて「世界を見ると、後半上げていくことを重視している選手もいる。この説明を聞いても、すっきりしないです」と、選考結果を嘆きました。
オリンピックや世界選手権のマラソンの代表選考は、いくつかのレースでの成績を総合して判断するため、以前から「なぜ、こっちの選手が!?」ということが話題になりがち。発表後は日本陸連に、選考を疑問視するファンから多くの電話が寄せられたそうです。
日頃から増田さんの解説は、選手への愛があふれているのはもちろん、綿密な取材と丁寧な準備を元に、興味深いエピソードがふんだんに盛り込まれることで定評があります。以前、某ワイドショーでコメンテーターとして何度かごいっしょさせていただいたことがありますが、本番前の打ち合わせのときに、ディレクターの話を聞きながら台本にあれほど細かくメモを書く人はほかに見たことがありません。
そんな増田さんだけに、今回のことも単に何となくではなく、客観的に判断してよっぽど納得がいかなかったのでしょう。しかし、陸上競技の解説者である増田さんにとって、日本陸連は嫌われるわけにはいかない相手。一般の会社で言えば、重役かスポンサーみたいなものです。
それでも増田さんは、きちんと自分の意見をぶつけました。サラリーマンをしている人や、あるいは自営業やフリーランスでも同じですが、利害関係がある相手に対して「それはおかしいと思う」と言える人が、どれだけいるでしょうか。酔っぱらって「俺は言うよ! ああ、言うとも!」なんて盛り上がっている人は、断言しますが、相手にとって耳が痛いことなんて絶対に言えません。言える人は、酔って気炎を上げる前に言ってます。