偏差値70近い超進学校の野球部が甲子園に出場──。ドラマやマンガの話ではなく、現実の話である。第87回選抜高等学校野球大会(21日開幕)に21世紀枠で出場する松山東高校(愛媛県)は、松山藩の藩校・明教館が前身。今年創立137年を迎え、旧制松山中時代は夏目漱石が教壇に立ち小説『坊っちゃん』のモデルとなった。高浜虚子や大江健三郎、伊丹十三らも輩出している。
文武両道を伝統とし、昨年も国立難関大・国立医学部に85人の合格者を出す一方、運動部と文化部で18種目が全国大会に出場している。野球の祖・正岡子規(同校中退)が創部に関わったとされる野球部からも、昨年は2人が東大に進学した。
当然ながら公立校のハンデは大きい。グラウンドは他部と共有で、野球部には内野スペースしかない。そのため、外野守備や内外野の連携プレーはグラウンド全体が割り当てられている土曜日の2時間に練習する。冬場は校則で午後6時40分完全下校が決まっているため、練習時間は2時間のみ。「足りない分は早朝練習と帰宅後の個人練習で補っている」(米田圭佑主将)のだという。
多くの部員たちは帰宅後の素振りやシャドーピッチングを日課とし、硬式球が打てるバッティングセンターの常連もいる。もちろん、練習後に塾へ直行する部員も少なくない。
全国でもトップクラスの進学校である同校の家庭学習時間の平均は1日284分(3年生)で、野球部では「たとえレギュラーであっても成績が悪い部員は練習を休ませる」(堀内準一監督)方針を貫いている。
センバツには82年ぶりの出場となるが、1950年夏には甲子園での優勝経験もある伝統校。昨夏の愛媛県大会で準優勝し、新チームになった昨秋も県大会準優勝で四国大会に駒を進めている。21世紀枠とはいえ、甲子園で勝てる実力も兼ね備えた超エリート校の戦いぶりに注目だ。
取材・文■鵜飼克郎
撮影■藤岡雅樹
※週刊ポスト2015年3月27日号