ロシアのプーチン大統領が国営テレビの特別番組で、昨年3月のクリミア侵攻時に米欧から妨害を受けた場合、核兵器の使用を検討していたことをあきらかにした。
本気で核兵器を使うつもりだったかどうかはさておき、並々ならぬ決意で事に臨んだ腹の内はうかがえる。
私が注目したのは、核兵器うんぬん以上にプーチン自身が「ウクライナ侵攻はロシアの仕業」とはっきり認めた点だ。プーチンは番組で、ウクライナを統治していたヤヌコビッチ政権が崩壊した直後の2月に「(侵攻を)私が決断した」と語っている(毎日新聞、3月16日付)。
プーチンは当時「武力衝突は地元自警団の活動だ」とシラを切っていた。だが今回、部隊の記章や階級章を外した謎の武装勢力はロシア軍だった、と白状したのだ。
これをどうみるか。「とっくに分かっていた話。目新しさはない」とみるのは間違いである。むしろ居直り発言によって「世界の危機はまた1段、レベルが上がった」と受け止めるべきだ。
プーチン発言は世界に向かって「お前たちは原状回復どころか、オレに手出しができない」と宣言したも同然なのだ。「なぜならオレは本気だから」と言っている。つまり、国際法はもうロシアに通用しない。ロシアは拒否権をもつ国連安全保障理事会常任理事国なのだから、核兵器の脅しよりもこちらのほうがはるかに重大である。
私は以前、クリミア侵攻と南沙諸島における中国、過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)の無法行為を指して「世界はテロと戦争の時代にモードチェンジした」と書いた。残念ながら無法化への転落スピードは緩むどころか、日を追って加速している。
こうなると、次に何が起きるか。世界で無法行為がエスカレートするとみる。それは荒れた中学校と同じだ。悪ガキが白昼堂々、同級生に乱暴や泥棒を働く。悪ガキが「オレがやった」と居直っても、だれも止められない。すると真似する者が出て学級はますます荒れる。やがて学級崩壊が近づく。いま世界はそんな危うい局面にある。
では、どうするか。私はこれまで日本は中国と緊張状態にあるのだから、それに加えてロシアとの無用な対立は避けるべきだと主張してきた。だが、あからさまな居直りを前にすると、そうも言っていられなくなる。