南米のとある小国のリーダーの演説をまとめた絵本が、日本でベストセラーになっている。日本とは環境が全く違う地球の裏側にある発展途上国の大統領が発するメッセージは、なぜ現代日本人の胸に響くのか。
絵本のタイトルは『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(汐文社刊、くさばよしみ・編、中川学・絵)。昨年3月に初版3000部で発売し、増刷はあったものの今年2月まで累計1万部程度の売り上げだった。
「ところが絵本の内容がネットで話題になり、テレビの情報番組で取り上げられると一気に広がった」(汐文社社長・政門一芳氏)
瞬く間に増刷を重ね、現在は7万5000部。売れ行きは依然衰えないという。
“世界でいちばん貧しい大統領”とは、去る3月1日に退任したばかりのウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領のこと。同書は2012年6月20日、国連の「持続可能な開発会議(リオ+20)」で彼が行なった演説の内容をそのまま絵本にしたものだ。
演説が人々の胸に響いたのは、ムヒカ氏自身が「清貧」を地でいく大統領だったからだ。ムヒカ氏は1935年生まれ。1960年代からゲリラ活動に参加し、4度の逮捕(うち2回の脱獄)を経験する壮絶な半生を送った。
「1972年に逮捕された後は軍事政権下で13年もの間“人質”として収監され、過酷な扱いを受けてきました。
1984年の民政移管の後、1985年に恩赦され、1994年に下院議員に当選。2005年には中道左派のバスケス政権で農牧大臣に就任しました」(ウルグアイ事情に詳しい和歌山大学教授の内田みどり氏)
そして2009年11月の大統領選挙で勝利し、2010年3月に大統領に就任した。元駐ウルグアイ大使の竹元正美氏はムヒカ氏の人となりをこう話す。