あれだけ反日を謳う中国共産党政権が、絶対に矛先を向けない唯一の存在が、天皇である。天皇の持つ歴史や権威が中国にとってそれだけ特別なのはなぜか。産経新聞中国総局(北京)特派員の矢板明夫氏が解説する。
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天皇皇后両陛下が4月、戦没者を慰霊するためにパラオを訪問したことを国営新華社通信などの中国の官製メディアが報じたが、日本絡みのニュースを伝える際によく使う批判的な表現はなく、「平和を祈念」「不戦を誓う」といった見出しで好意的に伝えている。
対日姿勢が厳しい習近平政権が2012年11月に発足して以降、メディアを総動員して反日キャンペーンを展開している。
安倍晋三首相は「右翼分子」と決め付けられ、何をしても批判された。これまで終戦の日や広島原爆投下の日などの際、安倍首相は陛下と同じように「平和への誓い」を述べたが、「本音を隠している」「戦争への反省が足りない」などと揶揄された。
習近平政権が日本に対して厳しい態度を取る理由は、国内で自身の権力基盤を固めたい思惑があると言われる。反腐敗の名目で党内の政敵を次々と失脚させ、国内の政局が不安定な状態が続いている。そこで、あえて日本と対決する姿勢を強め、緊張関係をつくることで、国民の注意を外に向けさせようとしていると言われる。
しかし一方、習政権による日本叩きのターゲットは安倍首相など政府要人に絞られ、皇室に対しては意図的に批判を避けている。それだけではなく、中国メディアはよく陛下の「平和への思い」などを紹介している。天皇は軍国主義を復活させようとしている安倍首相と距離を置いていることを意図的に国民に印象づけようとしているようにみえる。
中国はよく歴史問題で日本を批判するが、天皇の戦争責任に言及しているのはほとんど歴史の学術書だけで、メディアの報道では、歴史問題と関連づけて天皇を批判することは全くない。中国メディアのこうした姿勢が共産党宣伝部の方針であることは言うまでもない。天皇を政治利用して日本の世論を分断したい思惑があると指摘される。