「安倍家」「岸家」という名門政治家血族の取材を40年以上にわたって続けてきた政治ジャーナリスト・野上忠興氏が『週刊ポスト』でレポートしている大反響のノンフィクション。今回は「学歴」のキーワードから安倍晋三首相の実像を掘り下げる。(文中敬称略)
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安倍・岸家はいわば「東大法学部進学」を宿命づけられた家系といえる。
安倍の祖父である岸信介(元総理大臣)は東大法学部で我妻栄(日本の民法学の権威として知られる法学者)と首席を争った秀才で、大叔父の佐藤栄作(元総理大臣)、父方の祖父の安倍寛(元衆議院議員)、父の安倍晋太郎(元外務大臣)も東大法学部出身だ。
安倍3兄弟のうち、2歳年上の兄・寛信(現・三菱商事パッケージング社長)と晋三は成蹊小、岸家に養子に行った5歳下の弟・信夫(現・衆院議員)は慶応幼稚舎に入学、いずれもエスカレーターで大学まで進んだが、母の洋子は「中学受験を考えたこともある」と明かしている。
「父や夫も東大で、“東大じゃないと”みたいなところがあった。でも、晋三にそんな意識はあんまりなかったみたい。結局、父も『成蹊は一貫教育がいいんだ』ということで、そのまま上に進むことになった」
だが、高校生になると、父・晋太郎は政治家志望の安倍に「東大へ行け」と分厚い漢和辞典で頭を叩いて勉強を強いるようになる。「勉強はあまり好きじゃなかった」と認める安倍が反発したことは前号で触れた。
実は、安倍内閣には東大出身者が少ない。「お友達」と呼ばれる中で東大出身は厚労相の塩崎恭久くらいで、東大から大蔵省というエリートコースを歩んだ経産相の宮沢洋一など計4人しかいない。
「晋ちゃんは東大出身者とエリート官僚が嫌い。議員でも東大出身者とは肌が合わないのか敬遠する傾向がある。エリートだった祖父や父に対する学歴コンプレックスの裏返しではないか」とは安倍と付き合いの長い議員の見方だ。
大学進学にあたり、政治家志望の安倍は成蹊大学法学部政治学科を選ぶ。「子供の頃から政治家は嫌だった」という寛信は同じ成蹊大学の経済学部に進んでおり、兄との道が分かれた。
赤いアルファロメオで通学し、アーチェリー部に所属しながら学園生活を謳歌した安倍は、授業には熱心ではなかったようだ。学友の1人の証言。
「アルファロメオで通っているヤツがいると皆で驚いたら、安倍君だった。当時は学習院のアーチェリー部に可愛い女子部員が多くて、今でいう合コンに誘ったり、吉祥寺の行きつけの雀荘によく通って遊んだものだった。安倍君は小遣いが少なかったようで、互いに“マージャンに負けたら帰りの電車賃がなくなる”と必死で打ったものだ」