小説『火花』(文藝春秋)は35万部を突破。惜しくも受賞こそならなかったものの三島由紀夫賞候補となるなど異彩を見せているお笑いコンビ・ピースの又吉直樹が、26日発売予定の近刊『芸人と俳人』(集英社。堀本裕樹氏と共著)では俳句に挑戦している。小説では各界から絶賛された又吉だが、季語を入れて五七五の型におさめる伝統的なスタイルの俳句でもその才能は発揮されているのだろうか? 同書の共著者であり、2年間又吉を指導した俳人・堀本裕樹氏に話を聞いた。
「又吉さんについて、まず感じたのは、文学的な基礎が普通の人とは違うということ。数多くの本を読まれて、エッセイや小説を執筆しているだけあって、言葉に関して非常に鋭い人だと思います。俳句のセンスは間違いなくあるでしょう」(堀本氏、以下「」内同)
『芸人と俳人』では、対談の後に毎回一句つくる構成になっているが、又吉が初めてつくった定型の句は、こんな作品だった。
『廃道も花火ひらいて瞬(またた)けり』
「最初だから『花火』というわかりやすい季語を選んだのかな、と思いましたが、その後『文学界』に小説『火花』を発表され、それを読み終わった時、あらためて又吉さんが作った花火の句を思い出しました。
又吉さんは漫然と『花火』という季語を選んだのではなく、瞬いて散っていく儚い花火に強い思い入れがあるのではないか。又吉さんの心の中に火花・花火は原風景としてあり、その奥に表現したいことがつまっているのではないかと思いました。又吉さんの中で俳句と小説はつながっている。そして、又吉さんがピース結成前に活動していたコンビの名前は『線香花火』でした。お笑いも、つながっているんだな、と感じました」
又吉にとって、お笑いと俳句には共通点があるのではないか、と堀本氏は分析する。
「同書の対談の中で、僕が俳句について話したことに、又吉さんはお笑いの世界の言葉で返してくれることが何度もあり、そのたとえ話に非常に納得させられました。お笑いと俳句には、確かに似ている部分があると思います。又吉さんは、以前苦手だった『物ボケ』というジャンルに対し、俳句をヒントに自分なりの物ボケ発想法を編み出し、吹っ切れたそうです。又吉さんの中では、お笑いが根本にあって、小説や俳句がいいバランスで存在しているのではないでしょうか」
堀本氏は又吉を指導していくなかで、その成長していく姿を間近に見続けてきた。