安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁の考え方が大きくずれはじめ、日本国債は暴落の危機をむかえつつある。大前研一氏は、そもそも日本経済を良くするはずのアベノミクスは、「3本の矢」で知られるが、「第1の矢」(大胆な金融緩和政策)から役に立たないものだった、と現状に至る政権の無策について指摘する。
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いよいよ日本銀行の“尻”に火がついた。デフレ脱却を目指して2013年春に掲げた物価上昇率2%のインフレ目標達成時期を、当初の「2015年度を中心とする期間」から「2016年度前半頃」まで1年半も先送りしたのである。
黒田東彦・日銀総裁は、原油安の影響などを除けば「(2年で2%の物価上昇率を目指す)コミットメント(約束)通りになっている」と述べ、「景気回復で企業業績が改善し、賃金の上昇を伴って物価が緩やかに上昇する基調は変わらない」と強弁した。しかし、私に言わせれば、それらは言い訳にすぎず、「2年で2%上昇」の約束は守られなかったと判断せざるを得ない。
実際、黒田総裁は焦りを隠せなくなっている。たとえば、このほどマスコミに報じられた、2月の経済財政諮問会議で黒田総裁が安倍晋三首相に財政再建をめぐって直言した際のオフレコのやりとりだ(以下、黒田総裁と安倍首相の発言部分は日本経済新聞4月15日付記事より引用)。
それによると、黒田総裁は「ここからはセンシティブな話なので、外に出ないように議事録から外してもらいたい」と切り出し、昨年11月に消費税増税の先送りを決めた後、格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスが日本国債の格付けを「Aa3」から「A1」に1段階引き下げて中国や韓国よりも低くしたことから、国際的な銀行の資本規制では「外国の国債については、その格付けに応じて資本を積まなければならない。
格付けが下がると、どうしても外国の国債を持たなくなる。現に欧州の一部の銀行がそのように動いた」と指摘。この動きが日本の銀行などにも拡大すれば、日本国債暴落のリスクが高まるとして、財政再建に本腰で取り組むべきだと訴えた。