悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚の色素を作り出す細胞が悪性化した腫瘍だ。発生部位は足の裏が多く、爪や顔、体などあらゆる皮膚に発生する。早期であれば手術で治療可能だが、進行すると決定的な治療法がなく、予後(よご)が悪い。5年後の生存率は約10%と極めて危険ながんだ。
ここ30年ほど、メラノーマの治療薬は開発されていなかったが、2014年に世界に先駆け、日本で免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブ(商品名:オプジーボ)が保険承認された。
国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科の山崎直也科長に話を聞いた。
「がんの免疫療法は、1970年代から盛んに開発されましたが、ほとんど成功しませんでした。しかし、メラノーマの中には、自然消退(しょうたい)といって、がんが小さくなったり、消えたりする例が5%程度あることが知られています。これは、免疫の力でがんを治したために起こったものです。免疫チェックポイント阻害薬は、従来とは作用機序(きじょ)の違う方法で、免疫力を引き出す治療として開発されたものといえます」
がんは自分の細胞が変化したものなので、体の外から来る細菌やウイルスのように、免疫細胞によって攻撃対象だと認識されにくい。認識した時にはすでに遅く、太刀打ちできないほどに増殖している。しかも、がん細胞には、Tリンパ球など強力な細胞の免疫機能を抑制する特別な能力がある。これによって、がんは免疫細胞の攻撃を避けることができる。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞による抑制機能を解除し、再びがんを攻撃させる薬だ。チェックポイントというのは、免疫細胞の表面についているタンパク質のことで、免疫細胞には働きを抑制するものと活性化するものがある。チェックポイントの一つであるPD-1が、がん細胞のPD-L1と結合すると働きが抑制される。ニボルマブは抗PD-1抗体として結合を阻害することで、がんへの攻撃を再開させる。