テレビ通販の神様といえば、この男だ。ジャパネットたかた創業者・高田明氏、66歳。今年1月、社長の座を、息子・旭人氏(36)に譲ったものの、今も独特の訛り口調を発しながら、カメラの前に立つ。ノンフィクション作家・佐野眞一氏が、「伝える力」の源泉を聞いた。
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高田氏は大阪経済大学ではESS(英会話部)に入って、英語漬けの毎日だった。当時開かれていた大阪万博には、外国語の練習に16~17回も通った。
「卒業後は阪村機械製作所という機械メーカーに就職し、貿易部の配属になった。23歳のとき、長期ヨーロッパの出張で8か月間ドイツにいました」
高田は本拠地を旧西ドイツのデュッセルドルフに定め、ポーランド、ハンガリー、チェコなど当時の共産圏諸国をずっと回った。
──一番冷戦の厳しい時代ですね。アメリカに対抗して共産圏はコメコン体制(*注)をつくった。ところで、共産圏には主に何を売ったんですか。
【*「Council for Mutual Economic Assistance」の略。旧ソ連、東欧諸国を中心とする国際経済協力機構】
「ネジをつくる工作機械です。一番大きなものでは100トンもありました。だから1台何十億とする機械もありました」
この話を聞いて、高田のセールストークに抜群の説得力がある理由がわかった。いわば“敵国”に商品を、しかも高価な商品を売る以上、冗談半分では売れるはずがない。
高田は「サンケイビズ」(2月19日付)で、「長年のテレビショッピングを通じ、『心を伝えないと売れない』ということを痛感しました」と語っている。
世はあげてデジタル化、マニュアル化の道をひた走っているが、高田のくどいほど親切な商品説明は、あえてその傾向に逆行して消費者の心をとらえたといえる。そのビジネスマインドは、共産圏諸国との難しい商談のなかから生まれた。