「中国の不動産王」と呼ばれる男が率いる企業グループの株をめぐって中国中枢が揺れている。その株が習近平主席の姉夫妻や胡錦濤前主席の子息、温家宝前首相の子息らの関連会社に渡っているとの情報がメディアにリークされ、金にまつわる疑惑が急浮上しているのだ。アジアナンバー1の大富豪・王健林氏とは一体どんな人物なのか? ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。
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「今年に入ってからの大きな買い物はスーツ3着だけ。全部で2万元(約38万円)ほどだ」。こう語るのは、「中国の不動産王」とも呼ばれ、今、中南海を揺るがす疑惑の中心人物でもある王健林・大連万達集団(ワンダ・グループ)会長だ。
王は今年に入ってグループ株が急騰したこともあって、香港の大富豪である李嘉誠・長江実業会長や、中国一の富豪の馬雲・アリババ集団会長を抜き去り、5月に発表された富豪ランキングで総資産381億ドル(約4兆5700億円)とアジアナンバー1に躍り出た。
「王健林は以前、遼寧省大連市西崗区人民政府に勤務していたことがあり、だれよりも朝早く職場に入り毎日欠かさず上司の机やその周りを掃除していたそうです」
王のビジネス拠点である大連市で10年以上もビジネスのコンサルタント会社を経営する高瀬正博氏が、その当時、同じ職場で働いていた知人から聞いた話だ。
王自身も中国紙「新京報」のインタビューで、「毎朝6時には起きて、7時には会社に出勤する」と語っているように、60歳になったいまでも朝は早く、「社員の遅刻は許さず、みなりもしっかりとさせている」と強調。それに違反すれば、1回ごとに月給から100元(約1900円)を差し引かれるという。
このような厳格さは多分に王が軍隊出身であることと密接な関係があるようだ。王は15歳で軍に入隊し、中朝国境の吉林省の部隊に配属され国境警備の偵察兵として軍歴を歩み始めた。1978年には20~30人の兵士をたばねる小隊長に昇格。軍務に熱心で、気が利き、頭もよかったため、大連陸軍学院で1年間学んだ。
さらに軍の推薦を受けて入った遼寧大学を卒業すると、16年間の軍隊生活に終わりを告げ、1986年には大連市西崗区人民政府弁公室主任に転じた。毎朝早く出勤し、上司の机拭きを日課にしていたのもそのころだ。