暴力団マネーにいよいよ国税のメスが入るかもしれない。暴力団は税務上、PTAや町内会、大学のサークルといった任意団体と同じ扱いとされ課税を逃れてきたが、6月16日の工藤會・野村悟総裁(68)の4度目の逮捕が「上納金」を「個人の収益」とみなしての立件だったからだ。しかし現実に暴力団マネーに課税が行われることはめったにない。なぜ課税が難しいのか、ジャーナリストの伊藤博敏氏が緊急レポートする。
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暴力団マネーへの課税はこれまでに例がなかったわけではない。1982年、神戸地検は、竹中正久・三代目山口組若頭(当時。後に四代目組長)の賭博開帳による収益が3年間で約3億6000万円にのぼるのに無申告だったとして、約1億9000万円の脱税で逮捕・起訴した。それが暴力団幹部の個人資産を狙った初めての事件とされる。
他にも、山口組系五菱会の会長側近が「ヤミ金の帝王」として暗躍し、約1億7000万円を脱税したとして逮捕された事件もあった(2003年)。会長側近は懲役6年6か月の実刑判決に加えて約51億円の追徴金を命じられた。
だが、暴力団マネーの摘発は極めてレアケースだ。そもそも非合法な収益が多く税務当局が収入や資産を捕捉することが非常に困難であり、合法収益であってもヤクザが自発的に申告するとは限らない。広域暴力団幹部が明かす。
「銀行口座振り込みなんて足がつくようなことは絶対にしない。報酬は現金の手渡しが基本だ。たとえば、地上げ案件で占有占拠している連中の排除など、面倒な相談事を持ち込まれて処理したら、即金でもらうかツケにしてやるかは別にして、必ず報酬は現金で受け取る。
債権回収の仕事でカネを回収したら、その場で債権額の半分を現ナマで受け取るのが通例だ。みかじめ料もそう。飲食店や風俗店などにおしぼりやレンタルの植木や絵画を“納入”するにしても、月極の現金払いだ。領収書? 書いてくれといわれたこともないし、頼まれても書くわけない」