年間1000万人以上が受けるバリウム検査では、多くの胃がんの見逃しや死亡事故が起きている。にもかかわらず、「早期発見のため」と推奨される背景には、巨大ビジネスとなった検診を天下り役人や医学者、業者が利権化してきた構図があった。
今後の胃がん検診を変える可能性のある新手法を明らかにする。
「私は現在のバリウム検査が有効だと考えていません。50年近く毎年、胃がんで亡くなっている5万人という数が変わらないからです。胃がんの99%が、ピロリ菌が原因の“感染症”だと明らかになった以上、我が国の胃がん対策を根底から変えなければならない。それが世界標準なのです」
そう話す浅香正博医師(北海道大学特任教授)は2013年12月、WHOがん研究機関・IARCの会議に専門委員として出席した。同会議で世界の胃がん研究者たちが議論を重ねた末、IARCは〈ピロリ菌のスクリーニング検査、および除菌治療を行うことを推奨する〉との勧告を発表した。
「まずピロリ菌の感染を調べて、感染者には除菌治療をすることで胃がん予防を進める。日本は2013年からピロリ除菌治療が保険適用になり、年間150万人(推定)が治療を受けました。これで胃がんは大きく減っていくと考えます」
浅香特任教授らの研究で、ピロリ除菌の胃がん抑制効果は60%以上(Lancet誌掲載)と判明した(ただし、除菌による胃がんの抑制効果が現われるには3年以上かかるため、ピロリ感染者は内視鏡検査を定期的に受ける必要がある)。
そうした研究成果と連動して、2006年、「胃がんリスク検診」(通称、ABC検診)という新しいスクリーニング方法が、群馬県高崎市で乾純和医師らが中心となってスタートした。