石坂泰三、土光敏夫……日本を代表する経営者を輩出した名門企業が、今かつてない危機に立たされている。
今年4月に発覚した東芝の「不適切会計」問題は次々と新事実が明るみに出て、額は2000億円にまで膨れ上がった。社員たちはなぜ、巨額の“粉飾”に手を染めたのか。背景にあったのは、社内の激しい派閥抗争と、“派閥の領袖”たる社長同士の仁義なき争いだった。
東芝の人事には特徴がある。社長の出身母体が、パソコンや家電などの「家電系(弱電)」と、原子力などの「インフラ系(重電)」で交互に入れ替わっていることだ。
実際に1990年代以降を見れば、西室泰三氏(家電営業)→岡村正氏(社会インフラ)→西田厚聰氏(パソコン)→佐々木則夫氏(原子力)、そして現在の田中久雄氏(パソコン部品などの調達)と重電と弱電の両部門から交互に社長が誕生している。財界では「社長が替われば主流派閥も替わる」と囁かれている。同社の中堅幹部が語る。
「重電と弱電は同じ会社でもまるで異なる組織。自分の所属する部門から社長が出れば、ボーナスの査定が上がりやすくなるので張り切るし、出世もしやすくなる」
この構図を背景に今回の内部通報を見ていくと、合点がいく。
「経済界では証券取引等監視委員会(SESC)への内部通報が当初インフラ系に限られていたのは、西田派(家電系)が、佐々木派(インフラ系)を追い落とそうと画策したためだといわれています。
これに対して佐々木派が“悪いのは俺たちだけじゃない”とやり返した。これはメディアを巻き込むリーク合戦に発展している。大手新聞も西田派、佐々木派に分かれています」(経済ジャーナリストの須田慎一郎氏)