お笑い芸人の又吉直樹氏が芥川賞を受賞した。純文学の登竜門として権威ある芥川をお笑い芸人が獲るのは史上初の快挙だ。しかもそれだけでなく、受賞会見が大人力に溢れていたと、大人力コラムニストの石原壮一郎氏が指摘する。
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出版界にとって久しぶりの明るい話題と言っていいでしょう。人気お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹が書いた小説『火花』が、第153回芥川賞を獲得。羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』との同時受賞で、直木賞は東山彰良の『流』が受賞しました。
もちろん受賞自体もたいへんな快挙ですが、感動させられたのは受賞会見やその後の取材での又吉の発言。巧みに笑わせつつ、随所に並々ならぬ大人力があふれていました。
とくに着目したいのが、相方の綾部佑二に対する深い気づかい。「今後、師匠や兄さんから『先生』と呼ばれるのでは?」という質問に対して、こう答えています。
「僕のことをふざけて先生と呼ぶことはあると思うんですけど、本気で呼ぼうとしているのは相方の綾部だけだと思う(笑)」
このところコンビ格差をネタにしている綾部にとっては、そうやっていじられることが何よりありがたい対応。実際、綾部は受賞を知って「大先生、芥川賞おめでとうございます。これで本格的にアシスタントになる覚悟ができました。これからも宜しくお願い致します」という自虐的なメッセージを発表しています。
又吉は会見後の取材でも、綾部から「(借りてた)2万円、返さんでいいよな!?」というメールが届いたことを暴露しつつ、「ちゃんと返してもらおうと思います」と断言したり、ふたりっきりのときに「(受賞したら)時計買ってくれ」と言われたことを漏らしたりなど、綾部の自虐キャラ作りを見事にアシストしました。まさに大人力に満ちた阿吽の呼吸であり、深いコンビ愛のなせる業と言えるでしょう。
もし仮に、又吉が綾部に対して申し訳なさそうな素振りを見せたり、綾部が又吉に型通りの強がった祝福を送ったりしていたら、どうだったか。当人同士もモヤモヤするだろうし、そんな様子を見たり読んだりしている私たちも、微妙なわだかまりの存在を邪推して、ふたりを見ても素直に笑えなくなりそうです。しかし、綾部が自虐のポーズに徹し、又吉がそれを軽くあしらうことで、コンビにとってのピンチを見事に乗り切りました。
賞金の100万円の使いみちを聞かれたときも、「食べたことのないご飯を食べましょうかね。たとえば、行ったことのない国の料理を食べましょう。(同居している)パンサー向井とジューシーズ児玉になるんでしょうかね」というプランを発表。相方の綾部については「好き嫌いが激しいので、食うたことがないものは食わないと思うので後輩ふたりで行きます」と言い切りました。
綾部としては、そういう席に行ったとしても、どう振る舞っていいか困ってしまうでしょう。誘われて断わるのも、やっかんでいるみたいで嫌な感じです。あらかじめ「呼ばない理由」をはっきりさせたのは、大人の思いやりに基づいてのことに違いありません。