「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」を「3本の矢」とした第2次安倍政権がすすめたアベノミクスは、うまくいっているとばかり喧伝されがちだ。そのうちのひとつに、円安で景気が良くなるという言い方があるが、本当だろうか。経済学者で投資家でもある小幡績氏が、円安で景気がよくなるという言説のからくりと真相を解説する。
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安倍政権成立が確実視された2012年の衆議院解散時(11月16日)の1ドル=80円の水準から、今年6月5日の一時125円台まで、円の価値は40%程度下落しました。
円安で「日本企業が復活」と政府や新聞・テレビは歓喜しています。本当に喜んでいいのでしょうか?
円安で一部の企業の利益は増えました。しかし、これは米国に輸出して3万ドルで売っていた自動車が、1ドル=80円なら240万円、120円なら360万円、と円ベースで見た価格が上昇したことによって円ベースの売り上げが増えただけです。輸出「台数」が増えなければ、国内生産も、国内雇用も増えないので、実質的には意味がありません。
一方、海外子会社の利益の円換算額も増えています。10億ドルの利益は1ドル=80円なら800億円ですが、120円なら1200億円です。この分、利益が膨らんでいるように見えるのです。
しかし、国内の生産も雇用も増えていませんから、円建ての企業収益が改善しても、それほどプラスの効果はありません。
一方、円安により生活コストは急騰します。原油も小麦もドルで国際的に価格が決まっていますから、円での価格は1.4倍になり、輸入物価が上昇してしまいます。必需品が値上がりして生活は苦しくなります。
この輸出と輸入のプラスマイナスでどちらの影響が大きいかというと、トータルでは必ず輸入価格上昇の損の方が大きいと経済学上わかっています。