日銀による「量的緩和政策」で株価が上がっているといわれているが、それは本当なのだろうか。経済学者で投資家の小幡績氏が、量的緩和とは本当に効果があるのかについて解説する。
* * *
安倍政権の誕生以降、日本の株価は大きく上がりました。いわゆるアベノミクスとは、海外では日本銀行の量的緩和政策のことだと思われています。実際、経済政策で大きく変わったのは、量的緩和の規模だけです。だから、「量的緩和で円安になり株価が上がった」ことは疑いようのない事実です。
ただ、それが「事実」だからといって「因果関係がある」とは限りません。「たまたま株価が上がったときに量的緩和が行なわれた」、あるいは「常に同時に起きるけれど、その間に原因と結果の関係がない」こともあります。専門用語で、「相関関係はあるけれど因果関係はない」と言います。
要は、量的緩和を拡大したら株価は上がったのですが、その本当の理由は何かが問題なのです。もし量的緩和そのものに理由があるなら、量的緩和を無限に拡大すれば、株価も無限に上がることになります。そんなことが本当に起きるのでしょうか。
最初に量的緩和で株価が上がる、という前例を作ったのは米国です。米国の中央銀行の政策を決定するFRB(連邦準備理事会)が2007年以降の金融危機で、量的緩和の開始および拡大を3回行ないました。そのたびに株価は上昇し、逆にFRBがその縮小を表明するたびに株価は下がりました。
しかし、FRBの前議長で、量的緩和を強力に推進したベン・バーナンキ氏は、退任後の講演で、「量的緩和の一番の問題は、理論的には効果がないのに、現実には効果を持ったことだ」と述べているのです。バーナンキ氏は、量的緩和に関する経済学の第一人者なので、この皮肉は衝撃的でした。