経済産業省がスーツの代わりに着物で出勤を促す「きものの日」の導入を検討しているという。
ノーネクタイでジャケットを着用しない夏の「クールビズスタイル」は定着した感があるが、果たして着物や浴衣は仕事をするのに相応しい格好といえるのか――。社会保険労務士の稲毛由佳さんが解説する。
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ここ数年、花火大会やお祭りで浴衣姿の若者が増えたような気がします。
とはいえ、着物の出荷額は昭和50年代のピーク時の1兆8000億円規模から3000億円規模まで激減。着物を着るのは、成人式や結婚式くらい。一度も着物に手を通したことがないという人のほうが多い今、着物業界は青息吐息という状況です。
そこで、着物の衰退に歯止めをかけようと、経済産業省が着物で出勤を促す「きものの日」の導入を検討しているというわけです。
候補となっているのは、浴衣の季節である7月から8月、すでに一般社団法人全日本きもの振興会が「きものの日」として設定している11月15日、そして、仕事納め、仕事初めの年末年始の3つです。
実は、著者もプライベートの外出は洋服よりも着物のほうが多いという着物好きのひとり。しかし、会社の人事労務管理をサポートする社会保険労務士という立場からは、この試みには諸手を挙げて賛成はできません。
なぜなら、どうしても着物をめぐって会社のトラブルが増えることを予感してしまうからです。
服装は個人の自由で会社は口出しすることはできません。ただし、業務の円滑な遂行や職場の秩序維持のため、服装に一定の制限をすることは可能です。
タンクトップなどの露出の多い服やTシャツやジーパンなど、カジュアルすぎる服装は禁止――。
就業規則や服装規定できっちりと定めている会社もあれば、暗黙の了解であったりと、多かれ少なかれオフィスにはドレスコートが存在します。
着物も洋服同様、フォーマルなものから、カジュアルなものまで種類はさまざま。また、着方によって雰囲気もがらりと変わります。
着物姿が非日常的な今、オフィスにおける着物のドレスコードをイメージできる人は少ないでしょう。なんの縛りもなく、オフィスでの着物を解禁したら、個性あふれる振り袖姿が話題をさらう最近の成人式さながら、職場で着物をめぐるひと悶着が起きそうです。
「職場に着物姿の人がいると、銀座のクラブにいるようで、仕事に集中できないかも」(40代男性)
「汚れると怒られそうで、仕事を頼みづらい」(30代男性)
実際、着物姿の人と仕事をすることに及び腰になる男性も。また、着物姿の女性に「色っぽいね」と、うっかり声をかけてしまうセクハラ男性も出現しないか、心配です。