ドラマにトレンドは確かにあるが、そこに乗ればヒットするとは限らない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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ホテルコンシェルジェ、危機管理専門家、保育士、消防士、内閣総理大臣、パティシェ、塗師、村おこしに取り組むスーパー公務員……。「職業」ドラマがやたら目に付く。今に始まったことではないけれど、『半沢直樹』(TBS)あたりから職業をドラマの主軸として扱う方向性に一層拍車がかかってきた気配。
たしかに、「知らない世界を知る」ことは、ドラマの楽しみの一つ。個性的な職業をドラマの題材にしたくなる制作側の気分も、わからなくはない。
昔は医者、刑事、弁護士あたりで十分だった設定も、繰り返しが過ぎれば飽きられる。段々に「あまり知られていない職業」へと触手が伸び、「レアな仕事」がズラリ並ぶようになったのだろう。
では、「個性的な仕事」を物語の中にきっちりと取り込むことに成功しているドラマが、いったいどれくらいあるだろうか?
ドラマを見て「世の中にこんな仕事があります」という表面的な紹介は伝わってきても、あるいは他のドラマと差別化はできたとしても。その仕事「ならでは」の現場風景、手つき顔つき、リアリティ、葛藤や苦悩、困難やすばらしさといったものがくっきりと浮き上がってくる作品がいったいどれくらい……?
例えば、『天皇の料理番』(TBS)では料理人を演じた佐藤健のプロ並みの包丁さばきに絶賛が集まっていた。その一方、朝ドラ『まれ』(NHK)のパティシエぶりには厳しい意見や感想が散見される。「お仕事ごっこ」なのか、それとも「職業人を本気で演じ、役を生きようとしているのか」。一瞬に感じ分けてしまう視聴者の嗅覚。
もしそのあたりが中途半端であれば、ただ衣装と小道具を揃えて目をひくだけの「職業コスプレ」ドラマにしかなりえない。いや今どきのコスプレイヤーの追究度・本気度は多くのドラマをすでに凌駕しているのかも。
さて。今クールで私が注目している職業ドラマは、そうした一般的なドラマのまさに「正反対」を独走している。
主役は刑事。しかしまったくもって「刑事もの」っぽくないことが最大の特徴であり魅力の『婚活刑事』(日本テレビ系木曜23:59)。
刑事・花田米子(35歳)演じる伊藤歩の前には、次々に容疑者が現れる。婚活に熱をいれるこの女刑事、惚れた男は必ず罪を犯しているという、実にシュールな設定なのだ。
つまり、犯人らしき人物は最初にわかってしまう。捜査もしないうちに。と、「刑事もの」らしくないが見応えは十分。犯罪に手を染めることになったプロセスを紐解いていく人間ドラマを、ポップにユーモラスに展開していく。