17歳で歌手としてデビューした西郷輝彦は、その後、舞台やテレビドラマで活躍し、俳優としてもその才能を見せつけた。そんな西郷が、大ヒットした大河ドラマ『独眼竜政宗』で演じたのが、渡辺謙演じる政宗を支える守役・片倉小十郎。それまで主役ばかり演じてきた西郷は、同作で何を学んだのか? 映画史・時代劇研究家の春日太一氏の週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。
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若くして奥州の覇者となった戦国大名・伊達政宗の生涯を渡辺謙が演じた1987年のNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』で、西郷輝彦は政宗に従い、支え続ける守役・片倉小十郎を演じた。
「あれは代役だったんです。でも、台本を読んで『これは面白い役だ』と思いました。ただ、最初は悩みましたね。これまで主役しかやってきませんでしたから、脇役はどうすればいいか分からなくて。『なんで、ここでアップが来ないんだ』と思うこともありました。
勝(新太郎)さんが豊臣秀吉役で出ていたんですが、飲んだ時にそんなことを話したら勝さんにこう言われたんです。『アップなんていらねえんだよ。お前は一生懸命やってりゃいい。政宗が秀吉に無理難題を言われて困った時、視聴者は《小十郎は今どう思ってんだろう》と思う。そうなればお前の役は大成功だ』と。それで俄然やる気になりました。
森繁久彌さんも同じことをおっしゃっていたんです。『舞台というのはテレビと違ってアップにできない。だから、お客さんは喋っている人しか見ない。その時、他の連中は死んでろ、動くな』と。動くと観客の目がそっちに行っちゃうんですよね。
このドラマで謙ちゃんと芝居をして、『すげえ奴が出てきた。並の日本人のスケールじゃない』と思いました。それで、『これは、こっちは頭を使って芝居しなきゃダメだ』と。小十郎も何回かに一度、見せ場がありますから、そこは120%で行きました。そうすると、それまで抑えてきた分の効果が出てきますから」