“日本最大の暴力団”山口組分裂の波紋は止まらない。両派の対立は山口組本部のある神戸にとどまらず、全国各地の暴力団まで巻き込んだ。ヤクザに詳しいフリーライター・鈴木智彦氏が現状をレポートする。
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山口組の分裂抗争は、緻密な情報戦になっている。双方からのリークが、連日、警察やマスコミを振り回しているのだ。ヤクザ社会では親分・子分の盃が絶対とされる。それをひっくり返さねばならない離脱派は、特に活発に動いている。
9月4日、離脱派の最大派閥である山健組事務所で記者会見が行なわれるという噂が広まりマスコミが殺到した。テレビ、新聞はもちろん、週刊誌各誌はグラビア班を送り込み、花隈駅近くの事務所前道路はカメラマンでごった返した。
「記者会見なんて話は聞いてない」
地元の兵庫県警が首を傾げるなか、結局、山健組の組長たちの出入りを撮れただけで空振りだった。前日に離脱派から「明日は山健組の寄り合いがある。マスコミを集めておいてくれ」と電話を受けた実話系週刊誌が噂の大本で、伝言ゲームで伝わるうちに記者会見という話になったらしい。それを警視庁がキャッチし、警察をネタ元にするマスコミに拡散したのだ。
情報戦は翌5日も続いた。今度は同じ山健組の事務所に離脱派の組長たちが集まり、東京を拠点とする住吉会の二次団体、幸平一家の加藤英幸総長も合流するという。加藤総長は住吉会のナンバー3で、関東屈指の暴力派(武闘派)と評される組織を率いてきた人である。離脱派が山口組系以外の他団体を取り込むという噂は当初から流布されていた。他団体の取り込みが現実となれば山口組のお家騒動が、暴力団社会を巻き込んだ生存競争に変わる。東京・新宿歌舞伎町に事務所を構える指定暴力団幹部は次のように話した。
「過去、この歌舞伎町を地盤として数々の暴力事件を起こしてきた加藤さんの名前は特別なバリューだ。どういう形か分からなくても、友好関係をはっきり示したわけで、最高の贈り物になったはず」
住吉会、稲川会、山口組などの暴力団がひしめく歌舞伎町だけに、各組織の動向は大きな関心事ではある。