「不退転の覚悟で挑む経営再建に、もはや聖域はない」
経営危機に瀕しているシャープは、高橋興三社長が今年5月の中期経営計画でこう述べた通り、苛烈なリストラ策が実行されている。国内で3000人を超える希望退職者の募集や、大阪市阿倍野区にある本社ビル、堺工場の一部、千葉・幕張の開発拠点など資産売却の手続きも矢継ぎ早に進む。
そして、ついに会社の屋台骨にまでメスを入れる可能性が高まってきた。長年、「液晶のシャープ」といわれ、売上高の3割を占める〈液晶パネル事業〉を売却する方針であることが伝えられているからだ。
なぜ虎の子の主力事業を手放さなければならないのか。エース経済研究所アナリストの安田秀樹氏がいう。
「液晶事業はこれまで過剰な設備投資が重くのしかかり、赤字垂れ流しの元凶となっていました。
ただ、スマホやタブレット向けの中小型パネルは、今後も市場が成長するとの読みから外部に売却するつもりは全くなかったといいます。その考えが変わったのは、タブレットの落ち込みが激しいうえ、スマホも『iPhone6s』(アップル)の人気が前シリーズほど伸びないとの見方もあり、供給量が読みにくい状況だからです。
ディスプレイの供給は装置産業なので、安定的にスマホやタブレットが売れ続けないと単価が下がって利益が出ません。まして、工場の稼働率を維持させるにはそれなりの設備投資が必要なのですが、いまのシャープには単独でそれを捻出する資金もありません」
現在、有力な売却先として、すでに協業関係のある台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業や取引先のアップルなどの名が挙がる。その他、ソニー・東芝・日立製作所の液晶事業を統合したジャパンディスプレイ(JDI)の株主である産業革新機構(官民ファンド)から出資を仰ぐシナリオも検討されている模様だが、いずれにせよシャープにとっては「藁にもすがる状況」であることに変わりない。
しかし、「液晶を失ったらシャープの存在意義はなくなる」と指摘するのは、経済誌『月刊BOSS』編集委員の関慎夫氏である。
「シャープは20年にわたり“液晶一本足打法”の戦略を掲げ、テレビやビデオカメラなどの新製品もすべて液晶開発を原点に経営判断を下してきました。その根底がなくなったら、シャープに何が残るのか。これ以上売るものがなくなり『会社解体』へと向かう最悪の事態だって否定できません」