今年のカンヌ国際映画祭「ある視点部門」で日本人初の監督賞を受賞した黒沢清監督。その映画『岸辺の旅』が10月1日から公開されている。主演は浅野忠信と深津絵里。日本を代表する映画俳優といっても過言ではない二人の魅力や撮影秘話について黒沢監督に語ってもらった。
――この映画には原作がありますが、映画を撮るきっかけは?
黒沢:原作はぼくが見つけたわけではなく、プロデューサーから「こんな小説があるけどどうだろう」と紹介されました。読んで一発で気に入りました。死んだ夫が妻のもとに戻ってくるという設定自体はこれまでもある話ですが、通常はそのように始まりますと、2人が幸せだった頃に戻るとか、昔残した何かをするとか、非常にノスタルジックなストーリー展開になるのが普通です。
ところが、この原作の魅力は未来に向けてドラマが展開していく。ぼくたちは死んでしまった人たちとの関係をどうしても過去の思い出として語っちゃうんですけど、実はこれからの関係だってある。死者との関係は終わってないんだ、というテーマは非常にユニークで、感銘を受けました。
――主人公夫婦に浅野忠信さんと深津絵里さんというキャスティングですが、監督の希望が入っているんですか?
黒沢:キャスティングはもちろんぼくの希望だけでできるわけではありません。でも、今回は、40才くらいの夫婦で主人公と考えた時に、ぼくもプロデューサーも何の迷いもなく第一候補として、お二人の名前を挙げました。オファーしたら幸い、お二人とも承諾してくださり、スケジュールをいただくことができました。
――浅野さんが黒沢作品へ出演するのは、『アカルイミライ』以来2作目です。役者としての浅野さんの魅力とは?
黒沢:浅野さんも深津さんもまず言えるのは、一見どこにでもいそうなところです。それでいて、次の瞬間、見方を変えると普通の人とは思えない、選ばれた架空の、神話の中の特別な二人のようにも見える。どちらの面も持ち合わせていらっしゃることがとても強烈な魅力だと思いました。
とりわけ浅野さんは、変な指摘かもしれませんが、テレビのコマーシャルなど、結構出ていらして多くの人が知っている存在にもかかわらず、テレビドラマではまず見ない。まさに映画の人。浅野さんを見たければ映画館に行こうと。お二人とも人気者ですが、映画でしか見られない。そこに価値があると思っていました(笑い)。
――これまでの作品と比べて浅野さんの成長ぶりを感じましたか?