山口組分裂から1か月以上が経ったが、いまだ暴力による抗争は起きていない。離脱組は「神戸山口組」を名乗り、それぞれ互いの正当性を主張している。だが双方はこの間、世間の目に付かないように、相手を弱体化させる“禁断の武器”を投入していた。フリーライター鈴木智彦氏がリポートする。
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山口組の分裂劇は第2段階に入ったとみていい。マスコミを使って互いの大義を喧伝しあう論戦は、ぼちぼち終わりになるだろう。ただし、“政治的寝技”という手札が尽きるまで、暴力という最終手段は行使されない。「マスコミは好き勝手に抗争を煽るが、無責任きわまりない。そう簡単に抗争にはならない」という暴力団側の主張は、ある意味正しい。
ではどうなるか? それは暴力団からのリークをみるとはっきりわかる。もはや相手の不都合を感情的に罵倒することはない。警察が立件していない「未解決事件」の犯人を、具体的にリークしてくるのだ。
生臭い足の引っ張り合いは、最初、離脱派から六代目山口組のトップである司忍組長に対して実行された。離脱した宅見組・入江禎組長が、傘下団体から集めた山口組内部の金の流れを熟知しており、内部告発と証拠書類によって、司組長が脱税で逮捕されるという噂が立ち上がった。山口組関係者は「離脱派の捏造だ」と語気を強めて否定した。
「あり得ない。山口組に金の流れを示す書類など存在しない。それに集めているのは経費で、どれだけ調べても犯罪性はない」
が、問題は山口組と警察の関係だ。警察に対して明確な反意を示し、情報も出さず、捜査員を恫喝することさえ厭わない現在の山口組、とくに司組長の出身母体である弘道会を警察は別格に敵視している。上納金の私的流用を脱税に問われ、トップが再逮捕された北九州の工藤會同様、その取り締まりは国策捜査に近い色になる可能性が高い。
「警察の新手法はヤクザからすればただの因縁に近い。これまでセーフだった事例を、新解釈で犯罪にするということ。どんな手を使っても弘道会の幹部を摘発しろということは、不正を取り締まるのに不正ギリギリのラインを突けという意味だ」(指定暴力団幹部)