総工費の膨らみから大批判を浴びた末に、白紙撤回となった新国立競技場の建設案。現在“出直しコンペ”が行われているが、「前回勝者のザハ・ハディド氏が辞退したことで、国内二大建築家による事実上の一騎討ちになる見込みだ」(設計事務所関係者)という。
そのうちの1人が、隈研吾氏である(もう1人は伊東豊雄氏)。ここでは、隈氏のデザインの特徴について見てみよう。
隈氏はスコットランドに建築される予定の美術館「ヴィクトリア&アルバート博物館」の新館のコンペにも勝利した。地元産のやわらかな質感をもつ木材で覆われるという。
隈氏にはさまざまな意匠の作品があるが、比較的規模が大きく、また素材の質感を生かしながらそれを複雑に構築して、見たこともなかった外観に仕上げる近年の作品の傾向から、新国立競技場のデザイン案を予想するのに一番よい手掛りになる。
1954年生まれの隈氏は、東京大学工学部建築学科の出身で同大学院修士課程を修了。その後コロンビア大学で研究員として学び、1987年独立、現在は東大で教授も務める。今年9月22日にはフランス・パリの新駅のコンペを制するなど、国際的な評価も高まっている。
しかし、隈氏の過去の作品には競技場タイプの建築物がない。その懸念について、建築エコノミストの森山高至氏が説明する。
「たしかにスポーツスタジアムの経験はありませんが、大企業や自治体が手掛けるランドマーク的な大型建築物をいくつも設計してきました。また、スタジアムは構造が複雑ではないので、経験がなくとも隈氏なら全く問題ないと思います」
そんな彼の設計スタイルとは。森山氏が続ける。
「和風テイストが持ち味で『和の大家』と呼ばれています。近年手掛けた『根津美術館』(東京都港区)のように目に触れる部分には木材や竹などを使うのが特徴です。基礎には鉄骨も使用するなど、きちんと耐震性などを担保しています」