高齢化と少子化の問題は、中国が抱える社会的な課題でもある。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
* * *
経済の減速を受けた中国社会では、発展の鈍化した現状を「新常態」として位置づけている。そのため「新常態」は経済用語として使われることが多いのだが、実際はそうではない。以前に比べて治安が厳しくなっていることや言論統制が強まった現状も「新常態」というからだ。
そして、そのなかには政府が意図しない「新常態」もあり、目下、習近平政権にとっての重い課題となっている。それが、高速で高齢化することで社会に負荷がかかる「新常態」である。もちろんこれは、一人っ子政策で生じた人口ピラミッドの歪みと一体化した問題だ。
さて、こんな思い課題を抱えた中国だが、目下のところ高齢化社会についても少子化についても、思い切った対策が採られたという報に接することはない。せいぜい従来は両親がともに一人っ子である場合には二人目の出産が許されていた(双独二子)政策を、どちらか片方が一人っ子であれば認める(単独二子)という政策に変更を行った程度だ。
そんななか、『第一財経日報』は、〈第二子出産を政策として全面的に認めよ 五年老人問題の危機に直面〉と出した記事(2015年9月18日)を発表し、問題に警鐘を鳴らしたのだった。
記事では、70年代に5.81であった出生率が80年代には2.24まで降下。さらに90年代になると2.0を切り、この10年間は1.4から1.5の間をさまよっている現状を紹介しているが、これは世界平均である2.5を大きく下回るばかりではなく的中国が定める水準の1.7にも届かない数字だという。
この状態が将来中国社会に深刻なダメージをもたらすと警告するのが人口学者の姚美雄氏である。
姚氏が指摘する将来の懸念は大別した五つに分かれている。一つ目が、生産年齢人口の減少である。中国では2012年から2014年までの3年間、生産年齢人口が連続して減少し続けている。この傾向は今後加速するとみられ、2022年から2025年までの4年間には毎年1100万人以上の減少が続くとされ、2030年には、2010年に比べて32%の減少、人口にして1億400万人もの労働力が失われるというのだ。
若者人口が減れば社会のイノベーション力が低下し、また消費の力も衰えるというのが二つ目と三つ目の指摘だ。