今年もノーベル賞の受賞者が話題を呼んだが、中国共産党政権が誕生してから初めて、中国人学者がノーベル医学・生理学賞を受賞した。これまで文学賞や平和賞の受賞者は出ているが、中国人が自然科学分野のノーベル賞を受賞するのは初めてだ。
受賞したのは女性研究者の屠ユウユウ(と・ゆうゆう)氏。受賞の対象となった研究成果はマラリアに効果的な成分を抽出したことで、マラリア病患者の命を多数救う結果になったことが評価された。しかし、あまり知られていないのは、それがベトナム戦争に出兵する中国軍兵士のマラリア対策という軍事的な目的だったことであり、それを命じたのは毛沢東主席だったということだ。中国紙「新京報」が報じた。
屠氏はすでに、85歳だが、名の知れた中国人研究者はほとんどが大学院を卒業して博士の称号を持ち、海外留学経験もあり、中国の研究者の最高学術団体である中国科学院に所属しているが、屠氏はこの3つに該当せず、「3ない学者」と呼ばれている。
それは屠氏が女性であることや、共産党の活動に積極的でなかったこと、あるいは性格的に気難しいことなども影響しているようだ。
しかも、受賞対象になった研究が国家プロジェクトとして、軍を中心として行われ、研究には多くの研究者が携わったにも関わらず、その責任者だったというだけで、屠氏がノーベル賞を受賞したことに他の学者が複雑な思いを抱いていることも大きな理由であろう。
同紙によると、研究が始まったのはベトナム戦争当時の1967年5月。中国指導部は北ベトナム支援のため、ベトナム戦争に人民解放軍部隊を派遣していたが、ベトナム国境付近は奥深い密林でマラリアが猖獗(しょうけつ)を極めており、多数の中国軍兵士が命を落とした。