今季限りで埼玉西武ライオンズを引退した西口文也投手(43)といえば、ノーヒットノーランおよび完全試合未遂がファンの間ではよく語られるが、西口自身にとって忘れられない痛恨の一球は、別の試合でのことだった。その西口の引退試合となった9月28日のロッテ戦。「ピッチャー西口」がアナウンスされた瞬間、地鳴りのような大歓声がわき起こった。
「スタンドが『13』のボードで一色になり、嬉しかった。フルカウントからの一球は最高のスライダーでしたが、ボールの判定。“最後なんだからストライク取ってくれよ”って思いました。打者の井口(資仁)も遠慮して振らなかったのでしょうね。ボールと言われて驚いた表情でした(笑い)。まァ、引退セレモニーで喋る時のネタになったので、オッケーかなと」(西口、以下「」内同)
西口が現役生活21年間で積み重ねてきた勝利数は182。200勝まで18勝と迫りながら引退することについては「悔いはない」と言い切る。
「プロに入る時はここまで勝てるとは想像もしてなかった。自分の中で“やりきった”と思えるから清々しい気分。解放感しかない」
西口といえば「悲運のエース」として知られる。ノーヒットノーランを2度、完全試合を1度、それぞれあと一歩のところで失敗し、“未遂”に終わった。
とくに完全試合は味方の援護がなく延長戦に突入。10回に初ヒットを許すという悲運を味わっている。
「心残りはありません。その3試合とも勝てていますから。記録としては残らないけどファンの記憶には残っている」
その言葉通り、忘れられない一球は、それらの“ノーヒッター未遂”の試合ではない。1996年4月14日のオリックス戦だ。