芸能

阿部寛『下町ロケット』 松平定知氏のナレーションが絶妙だ

 日曜夜の話題を当面、この作品が席巻する可能性がある。それほどの滑り出しといえそうだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

 * * *
 10月18日から始まった
『下町ロケット』(TBS日曜午後9時)。初回視聴率は16.1%とロケットスタート。ネット上でも話題が沸騰している。原作は池井戸潤の同名小説で製作スタッフも大ヒットドラマ『半沢直樹』と同じ。となれば、高視聴率も当然と思う人がいるかもしれない。

 が、ドラマの魅力を知り尽くして目が肥えた今時の視聴者たちは、そう甘くはない。前評判やブランドだけでは、見てもらえない。話題にしてもらえない。

 初回スペシャル枠の2時間、私自身、画面に吸い寄せられてしまった一人。その理由とはいったい何だろう? このドラマにどんな特筆すべき工夫や仕掛けが潜んでいるのだろうか? 3つの点から推測してみた--。

●役者同士で感情を増幅させる、現場の恐るべき集中力

 主役は、町工場・佃製作所の二代目社長、佃航平(阿部寛)。理不尽な特許侵害で訴えられ資金繰りに窮し、会社を手放すことを覚悟し、売却後に社長を辞めると言う彼を、経理部長の殿村直弘(立川談春)が必死に止める。そのシーンについて、阿部はこう振り返っている。

「号泣しました。現場でも大泣きしました」「何回見てもあそこのシーンで感極まるものがあって…」(「モデルプレス」2015.10.12)。

 このシーンは一例に過ぎない。他の場面でも役者たちの極度の「集中」ぶりが、ひしひしと、痛いほど画面を通して伝わってくる。

 全身全霊をかけてセリフを言う姿に、他の役者が影響され、感情がまた高ぶっていく。感極まって流れる涙。それがまた、別の役者に影響し……ドラマの撮影現場に、そうした「純粋状態」が生まれているのではないか。

 一度でも芝居というものをやったことがある人なら、想像できるだろう。緊迫してピュアで極度に集中した場が生まれると、相手の感情が自分に乗り移ってくる。もはや「演じている」という自意識や、演技の工夫とかセリフをどうしようといった小手先のねらいは、頭の中から消えてしまう。ただひたすら、目の前の役者の感情を受け止め、それに反応する、「純粋な存在」になっていく。そんな役者たちの姿を、『下町ロケット』の初回で、見せつけられてしまった気がする。

 だから、多くの視聴者が2時間、目が離せなかったのだ。これからの回もそんな純粋状態が果たして持続できるのかどうか。そのあたり、見所だ。

● ナレーションの秘密

 存在感のある役者たちに目を奪われ、ナレーションなんて端役と思いがち。しかし、ナレーションとは、物語の「土台」を作る役割。特に『下町ロケット』のようにリアルな企業活動を描き、錯綜する人間関係をテーマにするドラマでは、ナレーションの役割はさらに重要であり、その質も鋭く問われる。

 というのも、込み入った事情を視聴者がちゃんと理解できなければ、物語の盛り上がりも人々の苦悩ぶりも、つかめないからだ。

 だが、もし銀行の専門用語を伝えるナレーションが無味乾燥、説明的口調だったら? もう面倒くさくて、聞いていられないだろう。あるいは感情過多だったり、妙なクセがあればたちまち、ドラマの緊張感を削ぎ、耳障りで視聴者も気が散ってしまうはず。

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン