フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル不正で、結果的に販売台数世界一が盤石となったトヨタ。ところがそんななか発表された四代目となる新型プリウスは、まるで守りの姿勢のない“チャレンジ”に打って出たと、早くも話題になっている。
これまでのプリウスは、みずからレースカーのハンドルを握る豊田章男社長からすれば「燃費がいいものの、刺激に欠けるクルマ」だったと同社関係者は語る。そして、今回の新型プリウスは章男社長の不満を解消し、「走っていて楽しいクルマ」を目指したという。
しかし、章男社長は自らの好みだけで方針転換をしたわけではない。その背景には、フォルクスワーゲンとの販売台数競争があった。
トヨタが一時期、部品メーカーに対して「トヨタ車は環境性能以外、VWに負けている」と発破をかけ、関係者を驚かせたことがある。もちろん、VWのディーゼル不正問題が発覚するよりずいぶん前の話だが、意外にも、トヨタは基本的なクルマ作りでVWに負けているという現状認識をもっていたのだ。
そこで、2011年3月にトヨタが導入を発表したのが「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」という、「もっといいクルマ」を作るための新たな自動車の開発・生産の取り組みだった。
章男社長の指揮の下、開発現場では、ベンツやBMW、VWなど欧州メーカー車の走行性能が高い理由を徹底的に分析したという。それにより、エンジンの搭載位置や乗員の着座位置など、前後・左右・上下の重量配分が絶妙で、物理的にクルマが安定する設計になっていることを突き止めた。さらに、クルマのタイプ別に最適な設計をしたプラットフォーム(車台)を数種類用意し、転用することで、部品の共通化を進めてコストダウンをはかっていることも判明した。
そこで、TNGAでは、トヨタのラインナップを4タイプに分け、最適な重量配分を施した4種類のプラットフォームを設計した。従来よりエンジンの搭載位置が下がって低重心になり、安定性が高まったという。