JR長崎駅前。ここから南へ向かえば、ご当地ソングに歌われるネオン眩しい思案橋や丸山といった飲食街がある。しかし、昭和39年の創業以来、角打ちのできる酒屋さんとして地元ファンに親しまれている『荒木酒店』は、そちらとは反対方向の北の方角。平和公園や浦上天主堂へ向かう路面電車で2つ目の駅、宝町から歩いて3分のところにある。
「数年前までは、昼に飲みに来てさっと帰るお客さんもかなりいたもんですが、この頃は、いつもの顔が集まってくるのが夕方5時を過ぎる頃。それからは、みなさんのーんびりと、いつまでも飲んでしゃべってますよ。つき合いの長い人ばっかりになっちゃいましたねえ」と、主人の荒木唯義さん(66歳)。
午後7時前、今日はちょっと遅れたなあと言いながら、いつもの顔がやってきた。手慣れた動作で冷蔵庫から酒を出し、うまそうに喉を潤して、ふうっと一息。と、カウンターの端から笑顔を向けるもうひとつのいつもの顔に、やはり笑顔で話しかける。
「おやおや、今日も“365日男”が来てるじゃないの。よく飽きないね(笑い)」(60代、元製造業)「何言ってんの。そっちだって同じくせに。おまけに、もう15年も通ってるっていうんだから、そのまじめさにはとてもかなわないよ」(60代、元造船業)。
皆勤ぶりを尊敬しあったり、からかったり。元サラリーマン同士のかけあいがそんな感じですぐに始まった。
ここは、主人の唯義さん(66歳)が、奥さんのケイ子さんと一緒に、客にさり気なく気を配りながら、ちょっといじったりして、常連さんを連日連夜ご機嫌にさせている店なのだ。