近年、日本は外国人観光客が急増し、「観光」はビジネスとして大きく成長している。だが、日本は外国人観光客の訪問数で世界20位にも入っていない。トップのフランスには毎年8300万人以上が訪れ、GDPの7%強が観光収入だ。在仏日本大使館広報・文化担当公使として観光先進国フランスの戦略を間近で見た東京外国語大学教授の渡邊啓貴氏が、観光面におけるフランスの強さについて解説する。
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フランスは絶対王政の時代から自国の芸術活動を保護してきた。17世紀後半には対外政策の一環としてフランス語や思想・哲学を外国に普及させ、20世紀以降は芸術作品の海外輸出を国家主導で進めている。
これらは、フランスの歴史と文化に対する敬意を醸成するという目的のもと、私的交流も含めた知識人個人レベルから行われてきた。当然、フランスに対するブランドイメージは集客力にも還元され、その観光業でさらに国家ブランドを確固たるものにする。そのような明確なコンセプトのもとに進められた施策の結果、フランスは圧倒的な軍事力や経済力といったハードパワーはなくとも、一定の外交的地位を築いたのだ。
ここで重要なのは、コンセプトの部分である。残念ながら、日本人はどのように国家ブランドを作っていくかという戦略を軽視してきた。何かを始めるとき、とりあえずコンセプトは置いておいて、できることをやりましょうというのが日本のやり方。だからクールジャパンも、海外で人気だからということで推し進めてはいるけれど、経済効果以外のものをまだもたらしていない。
今後は、日本文化の軸をどこに置くのかをはっきりさせるべきだろう。何を見てほしいのか、どういった順番で見せるのかといった国家ブランドを作る仕掛けや戦略が必要なのである。