二枚目役を多く演じてきた俳優の藤竜也だが、派手な濡れ場などもあり、様々な話題を集めた『愛のコリーダ』出演後は、重苦しいイメージを払いのけたくてわざと同じことを続けていたという。自分は演技派だとは思わないという藤が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏の週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。
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藤竜也は1982年、映画『ションベン・ライダー』に主演した。相米慎二監督による長回しが有名な作品で、河合美智子、永瀬正敏のデビュー作でもある。
「伊地智啓プロデューサーが『出てくれないか』とホンを持ってきて読ませてもらったんだけど、全く分からないんですよ。最初は断ったんだけど、相米さんが『とにかく引き受けてくれないと映画が始まらない』と。そこまで言われたら断れませんから。相米さんは尋常な人ではないです。風体から何から変な人ですが、そこが魅力的で。
あの映画は子供たちが主役で、彼らへの演技指導は緻密にやっていました。一つのシーンごとに、体育座りにさせて長々と話していました。相米さんの喋り方は物凄くパワフルで、話が終わった頃には子供たちの雰囲気も狂気になっている。もう芝居なんかじゃないんですよ。
だから、危ないシーンもありました。僕の役は麻薬を常習していて、日本刀を持って暴れ出すんですが、子供たちが三人でそれに攻撃をしてくる。その時、こっちはジュラルミンを振り回しているのに子供たちは関係なくガーッと来るんですね。監督は『藤さん、そいつらぶん殴ってください。斬り倒してもいいです。刺していいです』って。
得物を持ってなくて子供たちを殴る蹴るする場面もありましたが、そこでも『本当に蹴ってください』って言うんですよ。そんなことできやしませんけどね。
語り草となる作品のその場にいたわけですから、思い出として貴重です。参加してよかった」