テレビドラマには様々な制約がつきものだ。常に水準以上の視聴率が求められることもその一つ。ただ、枠によっては思い切った試みも可能になる。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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『朝が来た』『下町ロケット』が高視聴率を叩き出し、熱い視線が注がれる今期のドラマ。対して、「数字」的には注目されないけれど、斬新な試みにじわりファンを増やしているのが深夜ドラマ。チャレンジングな冒険や文学的な表現が追求できるこの枠から、秀作が生まれている。
「チャレンジング」という意味あいで筆頭に挙げられるのが、「連ドラ史上初めて」女性同士の恋愛を題材にした『トランジットガールズ』(フジテレビ系土曜23時40分)だ。
人気を博した『テラスハウス』のスタッフが制作を手掛け、Dragon Ashの降谷建志が音楽を担当。「“好きになったのが女の子だっただけ”」というラブストーリーを目指すとプロデューサーは語る。
たしかに、独特の空気が漂う。受験生の小百合(伊藤沙莉)は、親の再婚によってアシスタントカメラマンのゆい(佐久間由衣)と姉妹になった。しかし、二人の間には深いミゾが。その関係が微妙に、少しずつ、変化していく…小百合の心の隙間に、入り込んでいく姉のゆい。二人の間にある緊張感、ザワザワっとする空気が、どんな風に溶けていくのか。見所だ。
印象的なのが、主役を演じる伊藤沙莉の声質。アルトでハスキー、ちょっとざらついている。女子高生のヒロインといえば、通常ならこの声はありえない。しかし、敢えて選択しただろう役者とその声が、リアル感を際立たせている。
多感な年ごろの女子高校生って、ちょっとイラッとしていたり、投げやりな感じがあったり。思春期特有の不機嫌さ、不器用さ、不安定さ。「自分の心の中に入ってこないで」と相手を拒絶するそぶりが、ハスキーなアルト声とからまりあって、生々しい感じを生み出す。伊藤沙莉の巧さと、テラハチームの演出の成果だろう。
妹の心の隙へ滑り込んでいく姉は、ふわふわと浮遊していて不思議な存在感。「ガールズラブ」と目を惹くワードが躍っているが、「人と人との微妙な距離感の変化」を細かく描写していくあたり、伝統的な純文学技法による面白さとも言える。