南シナ海・南沙諸島の岩礁を続々と埋め立てて要塞化する中国に対し、米国は軍事的措置も辞さない強硬な姿勢をとっているかのように見える。だが、財団法人「ディフェンスリサーチセンター」専務理事の杉山徹宗・明海大学名誉教授は、南シナ海の覇権争いは「米中の“出来レース”に過ぎない」と警告する。
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2015年10月下旬、中国の人工島建設で緊迫する南シナ海を米海軍のイージス艦「ラッセン」が遊弋(ゆうよく)、同11月8~9日には米空軍の戦略爆撃機B 52が人工島の周辺空域を飛行した。これを見た多くの日本人は「傍若無人な中国に対し、堪忍袋の緒が切れた米国がついに動いた」との印象を受けたのではないか。
しかし、当地で米中が本格的に戦火を交える可能性は極めて低いだろう。米軍の作戦は米中が演出する「出来レース」に他ならないからだ。
そもそも米中は過去100年にわたって友好関係を保っており、朝鮮戦争やベトナム戦争はあっても直接的に干戈(かんか)を交えたことはない。
中国の大国化とともに両国の関係はより緊密となり、世界最大の外貨準備高を誇る中国は現在、約1兆2000億ドル(約147兆円)の米国債を保有している。中国の不安定化は米国経済にとって死活的な問題であり、あえて軍事衝突を引き起こすとは考えにくい。