70代のアマチュア天文家コンビが10月、わずか8年で通算100個目の新星を発見。新天体の確定を行なう国際天文学連合の天文電報中央局も会報でその偉業を称えた。「会報の文章を読んだら、喜びがジワーッとこみ上げてきてね」と笑顔を見せるのは福岡から天文台に通う西山浩一さん(77)。佐賀に在住の椛島冨士夫さん(76)も「とても名誉なこと」と喜びをにじませる。
約30年前、2人は会社員時代に知り合い、天文ファン同士友情を深めてきた。退職した西山さんが佐賀・みやき町に私設天文台を建てたのは2007年。以来、二人三脚で新星を追い求め、国立天文台ホームページ内の「日本人が発見した天の川銀河外の新星一覧」には2人の名前がずらりと並ぶ。その発見スピードは驚異的で、天文仲間からは「夜空の暴走族」と呼ばれている。
新星の発見と聞くとロマンを感じるが、実際はとても地道な作業。一晩で200コマ近くの星空を撮影し、パソコンで確認を重ねて新しい光を探す。
「新星の候補が挙がってもほとんどが画像の乱れか、既に他の人が見つけたもの。候補の中でも発見の確率は500分の1です。作業は1個を探すのではなく、『499個は違う』という確認の繰り返し。黙々と働く労働者ですよ。だから天文台へ来ることを“出勤“といっています(笑い)」(西山さん)
年間250日は天文台へ通い、夏場は約7時間、冬場は約12時間、夜通し観測に勤しむ。設備には「東京の高級マンションが買えるほど」の私財を投じてきた。100個の発見はその執念の賜物だが、なぜ、そこまでの情熱を傾けられるのか。その問いに2人は声を揃えてこういう。
「銀河系内の新星を発見することは困難で、発見数の世界記録は33個。僕らは24個で、世界で2番目なんです。最近は、専門家でないと見つけづらい彗星を発見するという新たな目標もできた。2人とも課題が難しいほど喜びを感じる性格。そのためならおカネも、眠られんちゅうことも、苦ではない」
5年前に彼らが発見した新星は、NASAなどにより従来の常識を覆す新種の天体だったことが明らかになった。こうした学術的な貢献も励みとなっているという。
何がなんでも新星を発見したいという強い信念を持つ西山さんと、数字の分析力に長け冷静に星の位置を特定する椛島さん。個性は違うが名コンビだ。天文台の名称は「ミヤキ アルゲンテウス」。みやきは地名、アルゲンテウスはラテン語でシルバーを意味する。
「金メダルは無理でも銀メダル級の活躍をしたいという願いを込めて命名しました。銀河系内の新星発見で銀メダルは達成できたので、次に狙うは金メダルです」(西山さん)
2人の夢と絆は続いていく──。
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2015年12月18日号