「いま、中国で最も開発が進んでいるのは、ここ。通州ですよ。なんと言っても、ここに首都機能が移転し、副都心が建設されるからです」
北京市政府関係者はこう明かす。北京市計画委員会は今年、約4500億元(約9兆円)の北京市の公共予算支出のうち、半分の2250億元(約4兆5000億円)もの巨費を通州区に投じる。それだけに、有象無象の政商が利権を求めて群がっているが、そのなかに習近平ファミリーの暗躍もささやかれているという。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。
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「通州」は北京市を構成する14区2県のうち東部に位置する区のひとつ。習近平国家主席が10年の任期中で最大の建設プロジェクトと位置付ける首都経済圏構想の要となる「首都機能移転」の核心地区だ。
どのような都市を作ろうとしているのだろうか。すぐに浮かぶのは直轄市の天津や上海のようなイメージだ。
北京市中心部から、その通州に車で向かった。ところが、高速道路でほぼ10分で着いてしまい、拍子抜けした。距離的には10キロほどで、すぐ隣という感覚だ。街中を20分ほど走ると、区の中心部には大きな公園があり、その真ん中を大きな川が貫いている。
「これは『京杭大運河』という中国を南北に縦断する、かつての運河の一部」。こう地元民から説明を受けて、驚きを新たにした。
大運河は杭州から北京までを結び、途中で黄河と揚子江を横断して総延長は2500キロにも達する。通州はその最終地点だ。天津から運河が伸びているのだ。
運河の淵源は紀元前403年から始まる戦国時代にある。秦の始皇帝が紀元前221年に中国を統一してからも建設が進められ、隋代(581-618年)の初代皇帝・楊堅と二代皇帝・煬帝の二代にわたる大規模工事によって、ようやく一応の完成をみる。
しかし、100万人もの民衆が工事に動員されたことで、民の恨みを買い、巨額な工事費が支出されたこともあって、隋は二代で滅んでしまう。その後も大運河の建設は歴代王朝によって進められ、最終的に現在の中国共産党政権によって、再び整備が行われ、2000t級の船が通行できるようになっている。
そのような大運河の北端に位置する通州が新たな首都圏を形成することは、なにか歴史の因縁を感じざるをえない。