「ネット通販」が拡大の一途をたどっている。経済産業省が発表している消費者向け電子商取引(Eコマース)の市場規模は12.8兆円(2014年)で、2020年には20兆円規模に達するのは確実と見られている。
いまや小売業を中心に、Eコマース事業に注力しない企業は生き残れない時代といえるが、そのビジネスモデルは早くも次なるステージに突入している。成否のカギを握っているのは「オムニチャネル戦略」である。
従来のネット通販とどこが違うのか。流通アナリストでプリモリサーチジャパン代表の鈴木孝之氏が解説する。
「オムニチャネルとは、リアルな小売り店舗とネット通販を別々のツールとせずに、一体化して運営するビジネスモデルを指します。
例えば、店に置いてない商品や売り切れ商品などをその場でネット注文できたり、外出先でネット購入した品物が帰りに自宅付近のコンビニで受け取れたりと、消費者が販売場所を選ばず、シームレス(途切れなく)に買い物ができる仕組みです」
流通業界を牽引するセブン&アイ・ホールディングスも11月より、そごう・西武やイトーヨーカドー、LOFTなどグループ企業のネット通販を統合させた「omni7(オムニセブン)」を開始したが、鈴木敏文会長が「小売業界の最終形」と言い切る肝入りの事業だ。
「オムニセブンは、セブン&アイグループ内の約180万点の品物が全国1万8000店あるセブン-イレブンでも24時間受け取ることができるうえ、ネット専用に開発された独自商品や限定商品を増やしてアマゾンや楽天などに対抗している。
また、2万円以下の買い物なら何度でも無料で返品や交換ができるため、洋服のサイズ違いなどを嫌ってネット通販を利用してこなかった層も取り込みつつある」(経済誌記者)
この勢いが続けば、いずれオムニセブンが店舗売り上げを凌駕する日が来るのでは? と考えてしまいがちだが、意外にもセブン&アイの戦略は真逆だ。鈴木会長は新聞紙上でこんなことを語っている。
〈衣料品や靴などは実際に手に取ってみないと日本人は買わない。一般的にオムニチャネルはネット通販と思われているがそれは違う。むしろ広告ととらえるべきだ。ネットで見て欲しい商品があると分かればお客は実店舗に来てくれる。これがオムニチャネルの革命的なところ〉(日経流通新聞/2015年10月26日)
近年、家電量販店などではリアル店舗で品物を確認してからネットで注文する“店のショールーム化”が叫ばれて久しいが、セブン&アイはあくまでネットを商品の宣伝媒体と捉え、既存店の客数や売り上げをさらに拡大させようとしている。