都内在住のA子さん(51才・専業主婦)は、結婚以来30年、同居する姑(75才)にいびられ続けていた。料理の味つけ、外出時の服装、髪形、言葉遣い、手紙の文字、全てにケチがついた。
「やっぱり高卒の頭じゃ長男の嫁は務まらないのね」
口癖のようにそう言われた。
「早く死んでほしい…。そう思っていました。ひどいことを願ったバツなのかもしれません。10月、夫が先に死にました」(A子さん)
脳梗塞だった。勤め先の製紙メーカーで、会議の最中に倒れてそのまま逝った。
「慌ただしい葬儀を終えて、悲しみの底でふと思ったんです。同居する姑をどうするのか。夫は死んだ。もうあたしはこの姑とはなんの関係もない。それでもまだこの人と一緒に暮らさなければならないのか」(A子さん)
息子は大学を出て一人立ちしたが、夫婦で買った戸建てのローンはあと10年残っている。年金から一銭の金も入れず、3食当たり前に食らう姑をこれ以上養う余裕はない。
姑を追い出すことはできないか――。
ネットで調べているうちに、1つの答えにたどり着いた。姑との関係を終わらせる、ある公的書類があった。「姻族関係終了届」と呼ばれていた。11月18日、法律相談サイト『弁護士ドットコム』に1つの記事が掲載された。
タイトルは《夫の死後、姑と縁を切る魔法の書類》。
日本では結婚することによって配偶者の父母、兄弟姉妹らと姻族(親戚)関係が発生する。離婚すれば関係は終わるが、配偶者に先立たれた場合はどうか。この問いに答えた記事だった。
《「姻族関係終了届」を出すことによって、配偶者の父母らと、届を出した人との姻族関係はなくなります》
届はA4用紙1枚。自分の氏名、住所、本籍、死亡した配偶者の名前を記載し、役所に提出するだけだという。家族問題に詳しい加藤泰弁護士が語る。
「届を出せば、配偶者の三親等までの姻族関係が終わり、民法上の親族ではなくなります。他人になるので、扶養義務もなくなる。提出期限はなく、配偶者が亡くなった後であればいつでも出せます」
A子さんが驚いたのは、届の提出時に必要なのが「本人確認」と「配偶者の死亡証明」のみである点だった。
「配偶者の親族の意思は関係ありません。仮に姑が拒否しても提出できるし、受理されます。姑に黙って提出することも可能です」(加藤弁護士)