瀕死のシャープをどこが救うのか――。3月末に約5000億円という巨額の借金返済期限が迫り、会社存続をかけて“綱渡り”が続く同社。現在、官民ファンドの産業革新機構と台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業が支援に名乗りを挙げているが、異例ともいえる出資額の引き上げ交渉もあり、着地点が見出せない事態となっている。
報じられている両者の再建スキームはこうだ。
革新機構はシャープ不振の元凶となっている液晶事業を分社させ、新会社の株式を90%握った後に、日立製作所、ソニー、東芝の液晶事業を統合させた傘下の国策メーカー、ジャパンディスプレイ(JDI)と一緒にさせる構想。また、シャープ本体にも2000億円規模を出資し、白物家電や太陽光パネル事業などの業界再編も促す方針だ。
一方、鴻海はすべての事業や工場設備、従業員の雇用も当面は守るとしたうえで、シャープを丸ごと5000億円で買収する案を昨年末に示していた。ところが、今年に入って出資額を一気に7000億円まで釣り上げた模様で、シャープの主力銀行も最終決断に頭を悩ませているという。
時価総額が2000億円規模にまで落ち込んだシャープにとって、条件面だけ考慮すれば鴻海のほうが魅力的といえるが、金額の大小では片づけられない事情がある。エース経済研究所の安田秀樹アナリストがいう。
「シャープが経営不振に陥ったのは、技術力で他社に後れを取ったからではなく、過大な設備投資でビジネスが回らなくなったから。むしろ液晶技術ではスマホ画面など次世代ディスプレイの主力と見られている有機ELに応用可能な独自技術や特許をたくさん持っています。
そうした高い技術力が海外に流出して日本でまったく生産されなくなれば、中長期的には国レベルでの特許争いや、もっといえば貿易収支にネガティブに利いてくる可能性まで指摘されています。シャープの再建策はいわば国家戦略とも関わってくる一大事と捉えられているために、話が複雑になっているのです」
革新機構を所管する経済産業省の林幹雄大臣は1月19日、「民間の話でもあるので、どこまで介入できるかということもある」と慎重な姿勢もうかがわせたが、実際には水面下で国による積極関与が行われている模様だ。