今年4月から、厚労省は自治体の胃がん検診の指針を改定し、内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)を加える。発見率はバリウム検査の3倍。期待が高まっているが、内視鏡検査を導入できる自治体は一部にとどまる見込みだ。改革の先陣を切る自治体はないのか。『バリウム検査は危ない』(小学館)の著者・岩澤倫彦氏(ジャーナリスト)は、攻めの医療改革で知られる神奈川県の黒岩祐治知事に緊急インタビューを実施した。
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フジテレビの報道番組キャスターだった黒岩知事は、同局のディレクターだった筆者の大先輩にあたる。
黒岩「岩澤さんが書いた『バリウム検査は危ない』を読んで、重要な仕事をなさったなと感銘を受けました。真摯な調査報道です。
実は数年前まで私は毎年バリウム検査を受けていましたが、最近は内視鏡検査に切り替えました。個人的な感覚ですが、やっぱりバリウム検査は体に無理がある、と感じたからです。(検査後に)バリウムを体外へ出す苦痛は、便の通じが良くない人にとって大変な負担。内視鏡検査にしてからは、不安、恐怖感はなくなりましたね」
厚労省の指針は、自治体の胃がん検診にバリウム検査のみを推奨してきた(今年度まで)。そうした中で、自治体トップの黒岩知事がいち早く内視鏡検査に切り替えていたのには驚いた。
◆「胃カメラは苦しくない」
これまでレポートしてきたように、バリウムが体内で固まって腸閉塞や大腸穿孔(せんこう ※胃や腸の壁に穴が開いた状態)となり、死者も出ている。健康な住民が対象の検診で、そうしたリスクがあっていいのだろうか。
黒岩「重篤な事故も起きていますが、平成23年度に自治体で実施されたバリウム検査約379万件中、重篤な偶発症(検査や治療において生じる副作用などの不利益な事象)は9件。死亡例はないと聞いています。
偶発症になったご本人にとっては大変な問題ですが、検査全体が大変危険というレベルではないと考えている。いずれにしても、より安全な検査方法に移行すべきです」
黒岩知事の挙げた数字はその通りだが、厚労省によると、平成24年度の重篤な偶発症は17人、死亡1人。平成22年度は22人中、死亡1人となっている。
また、重篤な偶発症のすべてを自治体が把握しているわけではない。平成23年度、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に報告されたバリウム検査の重篤な偶発症は、大腸穿孔や腸閉塞など58人(うち1人が死亡)。一部に企業健診も含まれる数字だが、より実態を反映しているだろう。
一方、今年4月から導入される内視鏡検査に対しては、漠然とした恐怖感を抱いている人は少なくない。黒岩知事もその1人だった。
黒岩「自分が体験するまでは、胃カメラを体に入れるのは苦しいだろうと思っていたんです。受けてみると、麻酔で苦痛はありませんし、検査中に内視鏡の画像を自分でチェックできるので、非常に安心できます。実際に私の検査中に気になるところがあって、組織を内視鏡で採取して検査(生検)したんですね。お陰様で問題は見つかりませんでした。
これがバリウム検査だと、異変がわかってから内視鏡検査、と二度手間になる。バリウムのような検査後の苦痛もないので、内視鏡の普及は加速すべきだと思います。ただし、医療に100%の安全はない。内視鏡でも偶発症事故はあるので、安全対策が課題ですね」