俳優として映画やドラマだけでなく、映画監督、ナレーターや声優としても活躍する寺田農は、役者としてのキャリアを文学座の研究生としてスタートさせた。寺田が語った演技の本質についての言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。
* * *
寺田農は早稲田大学在学中の1961年に文学座の研究所に入所、一年目から劇団本公演『十日の菊』で抜擢を受けている。
「大学にも行きたかったんだけど。一方的にキャスティングされると、もうズルズル芝居に行かなきゃならなくなっちゃう。だから、もう早くやめたくてやめたくて。今でもプロフェッショナルという感じは全然しない。どこかアマチュアというか。
当時は芝居を教えるシステムが確立されてなかった。特に新劇は見よう見まねだったからね。その時の先生は芥川比呂志さん。でも、難しかったんじゃないかな。向こうも教えたことがないんだから。
言われたのは『本を読まなきゃダメだ』と『恋をしろ』ということ。でも、なぜそれがどう影響して何の芝居に意味があるのかは教えてくれなかった。
それは後になって分かったのね。演技というのは、その役を生きていくこと。でも、いくら波瀾万丈の人生を送ったとしても自分の経験値だけでは間に合わない。本の中にはありとあらゆる人生があるから、それを想像するのが大事なんだ。
恋には人間の感情の全てがある。愛すること、憎むこと、悲しいこと、寂しいこと、それに嫉妬。喜怒哀楽が全て凝縮されている。だから恋をすると芝居がよくなるんだよ。
でも、お互いに傷つかないような、つまらない恋じゃ意味がない。心中してやろうかというくらいに、のたうち回るような恋じゃないと」
1962年に社会派ドラマ『われら青春』(フジテレビ)で主人公グループの一人を演じ、以降は青春ドラマに相次いで出演した。