ドラマの命運を握るのが主役であることは論をまたないが、他にも光る存在がいれば確実にその作品の魅力は増す。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。
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NHK朝ドラ『あさが来た』で今、最も気になる人。あさでも千代でも藍之助でもはつでもない。雁助が加野屋を去ったタイミングで現れた、あの男。
何についても「へい」「へぇ」「へへい」という返事。だから「平さん」と呼ばれている、無口でちょっと風変わりな人。「山崎平十郎」という人物が、気になる。
元大蔵省会計検査院にいた人らしく、銀行業や経済事情に精通。今や加野銀行では従業員に知識や仕事を教える指導的立場でもある。それなのに。どこからかじわっと滲み出てくる、存在そのものの可笑しさ。
平さんは、小さな小さな文字でぎっしりとメモ書きするような「極め付きの始末屋」だ。端から端まで文字を書き込むことで1枚の紙を有効に使い切る。
似顔絵が上手くて、問題ありそうな客の顔とその特徴を細かく記した「閻魔紙」を作る。今で言うブラックリストを用意して、事前に客とのトラブルを回避する。いずれも、その有能さゆえに。
言動は論理的でムダが無い。なのに、どこかとぼけている。笑いを誘う。存在自体が、ギャグ的なのだ。
「平さん」を演じているこの役者さん、いったい誰? 相当な演劇的才能が無ければ、物静かなままでこうも存在感を醸し出すことはできないはず。
と思って調べてみると……東京出身の私が知らなかっただけ。実は、関西では知らない人がいないほどの有名人、吉本新喜劇座長の辻本茂雄氏。大阪のいわゆるコテコテ芸で知られ、かつて東京進出を目指したこともあった。しかし「大阪の匂いが強すぎる」と関西へ舞い戻った、そんな過去もあるとか。
一度は全国区を目指し挫折したその体験が、今、功を奏しているのかもしれない。
朝ドラの中では、適度に抑制。コテコテの濃さを、敢えて「抑える」ことで、かえって存在感は際立ち、全国に受け入れられるオモシロ味が滲み出ている。