安倍晋三首相は5月26~27日に開催される伊勢志摩サミットで議長を務める。関係者や経済アナリストの間では「サミットの最優先テーマは経済問題。主要国が経済協調することで世界同時株安を食い止め、世界経済をどう安定させるかは議長の手腕にかかっている」と期待されているが、実は安倍首相の視線は経済とは全く別の野心に向けられている。
ウクライナ問題やシリア問題などを巡って対立を深め、まさに「新冷戦」ともいえる状態にある米露を和解させるという外交的勲章である。
安倍首相にとって憲法改正や安保法制(集団的自衛権の行使)が祖父・岸信介元首相から受け継いだ政治的遺訓とすれば、ロシア外交は父の安倍晋太郎元外相から引き継いだライフワークでもある。
「創造的外交」を掲げて日ソ交渉にあたった晋太郎氏は、がんに冒されながらも「自分の目の黒いうちに道筋をつけたい」とソ連を訪問してゴルバチョフ大統領に来日を要請、1991年4月にゴルバチョフが初来日すると、末期がんで入院中だった病院を抜けて歓迎昼食会に出席し、「これで安心しました。あとは遠くから見守っています」と呼び掛けた。死の1か月前である。
秘書として父の背中を見てきた安倍首相は「あのとき、政治家の執念を見た」と述懐したことがある。
安倍首相がオバマ大統領の忠告をはねのけてまで、ロシア外交にのめり込むのは、欧米の対露経済制裁の緩和を仲介することでロシアに恩を売り、その先に、父の悲願だった日露平和条約の締結と北方領土返還交渉の進展を睨んでいるからに他ならない。
かつて「鉄の女」と呼ばれた英国のサッチャー元首相は米国のレーガン元大統領とソ連のゴルバチョフ元大統領の橋渡しをして冷戦終結に大きな役割を果たした。
国際ジャーナリストの内田忠男・名古屋外国語大学大学院客員教授は、米露の橋渡しを実現させるには安倍首相の首脳としての力量が問われると語る。