人気NHK連続テレビ小説『あさが来た』。その世界観を作り出すためのファーストステップとして重要なのがセットだ。撮影は、ほぼすべて、NHK大阪の200坪のスタジオで行われている。そこでセットを作っているのは、装置チーフ・市川康志さん(つむら工芸)だ。いわゆる「大道具」と呼ばれる市川さんは、どんな思いを持って『あさが来た』のセットを作っているのだろうか。話を聞いた。
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セットを作ることは、世界観を作ることだと思っています。ぼくたちのセットを見て、小道具さんが飾りを作っていく。その次に、衣装さんが着物や洋服を作っていく…最後には演者さんがどう演じるかにつながっていく。
世界観というバトンを作って渡していくんです。最初のランナーであるぼくたちの責任は重大です。だから、ぼくたちが手を抜いたり、世界観がぶれたりしたら、それなりのドラマにしかならない。とことん妥協せずに作り込みます。
朝ドラは『てるてる家族』(2003年)から携わらせてもらっていて、今回で13回目です。台本のない状態からしっかり資料を探して読み込んで、その時代について勉強します。今回ももちろんそうしました。その上で、そのドラマのテーマに合わせた色をセットに使っています。
『あさが来た』では、柱や壁に赤茶っぽい色を使うようにしています。これは、女性の柔らかいイメージを表現するためです。
ただ、主役はあくまで演者さん。芝居の邪魔をせず、自然に溶け込むセット作りを目指しています。また、スタジオの広さに限りがありますから、撮影の度にプラモデルのようにセットを組み立てます。
毎回、ゼロから作っていては、スケジュール的に厳しくなるので、1つのセットを使い回して、複数の建物に見せています。
加野銀行、あさの実家・今井家、はつが嫁いだ眉山家、加野屋――この4つは、1つのセットなんです。障子や襖などを変えています。例えば、加野屋を加野銀行にするとき、障子をガラスに変えました。あと、大阪商人が集う大阪商工会議所の応接室は、『マッサン』では鴨居商店の社長室でしたし、加野炭坑で炭坑夫が寝泊まりする部屋は、ウイスキーの樽小屋でした。
ちなみに、昔のガラスは今より透明感がないので、フィルムを貼って、わざと透明感をなくしています。
予算にも限りがあるし、解体しても組み立てやすくするため、加野銀行の門は、すべて鉄製では作っていません。枠の部分だけは鉄製ですが、あとは木材と塩化ビニル製の水道管を使っています。塩ビを使ったのは、セットに使える材料がないかホームセンターに常日頃通っていて、それがヒントになりました。
※女性セブン2016年3月17日号