大人気のNHK連続テレビ小説『あさが来た』。クライマックスを目前に、「語り」を担当する杉浦圭子アナ(57才)にその裏側を聞いた。
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朝ドラの語りは、テレビのニュース番組やインタビュー番組とは違って、私の姿は映りません。声だけの勝負なので、アナウンサーとしてとてもやりがいのある仕事です。語りの収録は、1話につき、2度行います。まず、台本を読んで、映像編集の目安のために仮に録音します。もうひとつが、放送用の語りの収録です。実際に放送される15分の映像に合わせて、語りを入れていきます。
今回の仕事で、私は脚本家の大森美香さんの大ファンになりました。台本が本当におもしろくて、新しい本をいただくたびにワクワク、ドキドキしながら拝読しています。台本には、語りの文言がたくさん書かれています。大森さんから思いを託されていると考えると責任を感じますね。その思いを正確に把握するために、台本を繰り返し読み込んでいます。
実は今の語りの形になるまで、多少、試行錯誤がありました。私にとって朝ドラの語りといえば、『おしん』を担当された女優の奈良岡朋子さん(86才)がとても印象に残っていました。落ち着いた声で格調高い。ひと声聞いただけで「参りました!」と言いたくなるほど素晴らしい語りでした。
その奈良岡さんが、かつてインタビューで、語りの極意について、登場人物の喜怒哀楽に左右されないで「一定の調子を保って語っています」とおっしゃっていました。ですから私も当初『あさが来た』を「落ち着いた低めの声で語ろうかな」と思ったのです。
ところが1回目の仮の録音時、演出家から「もっとテンションを上げて。明るく朝の雰囲気で」と言われたので、方向転換することになりました。今のように、ドラマの進行に即して必要な情報を伝えながら、登場人物に寄り添うような優しい語り口に変えたのです。
朝ドラの語りを担当するのは、『青春家族』(1989年)以来、2度目ですが、今回は年齢とキャリアを重ねた分、こう読みたい、という理想形が私の中にあるので、余計に難しさを痛感しています。