山口組が「六代目山口組」と「神戸山口組」に分裂してから約半年、両者の衝突が急速に激化するなか、ついに警察は殺し合いを待たずに「抗争」と認定した。かつて抗争に乗じて「頂上作戦」と呼ばれる暴力団壊滅作戦を指揮してきた警察は、いま新たな勝負に打って出た。フリーライター・鈴木智彦氏がリポートする。
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暴力事件を頻発させ暴走する2つの山口組──。
警察庁の金高雅仁長官は、3月3日の定例記者会見の時点では、「組織対組織の対立抗争と認定するには至っていない」とのんびり発言をしていた。しかし、その翌日、河野太郎国家公安委員長が「対立抗争事件と言わざるを得ない」という真逆の談話を発表している。事件が発生した日時と重ねると、警察庁の事件解析スピードがよく分かる。
警察の中枢が抗争認定のお墨付きを出したのは3月7日だった。これによって全国の都道府県警に集中取締本部が設置。8日には全国の暴力団対策担当課長ら90人が集められ、繁華街や通学路で市民が巻き込まれることを避けるため、警戒を徹底するよう指示した。
警察庁の発表によれば、神戸山口組の旗揚げ以降、認定している事件が49件あるという。(神戸山口組中核団体である福井県の)正木組への銃撃以降、わずか2週間に19件が集中したらしい。警察は抗争を、対立が原因で暴力事件が発生し、その報復があった状態と定義している。そのためには事件の実行犯を逮捕し、供述を引き出し、複数にある明確な因果関係を明らかにしなければならない。警察関係者が言う。
「ヤクザの世界は足してもブタ(893[ヤ・ク・ザ]。加算すると20のため下一桁が0で花札賭博でもっとも弱い)で、抗争に証拠は不要かもしれんが、役人はカブ(892[ヤ・ク・ニン]。合計19で下一桁が9は最も強い)である以上、仕事は完璧にしなくてはならない。現場はとっくに抗争と思っていても、それを文書化して報告する義務がある」
とはいえこれだけ事件が続けば、誰がみても定義に固執し、抗争ではないと言い続けるほうがおかしい。